トップページ > てんかん発作と似て非なるもの
内容
てんかん発作をみたら
異常な状態が突然始まる現象を発作といいます。
発作はさまざまな原因で起きます。
てんかん発作はその原因の一つにすぎません。ところが、発作がみられると、鑑別診断の筆頭にまず挙がってくるのがてんかん発作です。てんかん発作はどの年齢層にもみられますし、発作症状も多彩で、そして、なによりも発生頻度が高いためです。
しかし、そのために、てんかん発作でないものまでが、てんかん発作と勘違いされることになります。事実、てんかんを専門とする病院やクリニックにてんかんとして紹介されてくる「難治てんかん患者」さんのうち、かなりの方が実際にはてんかん発作をもっていないという報告がされています1)。
本章ではてんかん発作ではない「発作」について述べます。しかし、発作をきたす疾患あるいは病態は数限りなくあります。それを全てご説明することは上可能ですし、そんなことをすれば、逆に、なにがなんだか、わけがわからなくなってしまうでしょう。そこで、ここでは、てんかん発作と誤診されやすい「てんかん発作と似て非なる」疾患、病態に対象を絞り、そのうちの代表的なものについて触れることにします。
▲このページの一番上へ戻る
問診
しかし、その前に、発作性疾患における問診の重要性について改めて強調しておきたいと思います。
医者といえどもてんかん発作を実際に目撃できる機会はめったにありません。救急外来は別ですが、一般の外来診療では、発作を主訴に受診される患者さんのほとんどが、診察室におみえになるときには発作が止まって、いつもとさほどかわらぬ状態に戻っています。もちろん、それでも、一応、発作に関連した徴候がないか、診させてはいただきます。さらに、頭部MRI、CTなどの神経放射線画像検査、脳波、血液検査などの臨床検査も行います。しかし、発作の診断という面からいえば、そうした診察所見、検査所見は間接的なものにすぎません。発作そのものを示しているわけではありません(脳波検査時、偶然、発作時脳波が記録されるようなことがあれば別ですが)。発作の診断は、発作と発作前後の状況をご本人と発作を目撃し� � �人から可能な限り聞きだすことによってしかなしえません。問診が唯一の診断法といっていいのです。このことは、どれだけ強調しても強調しすぎることはありません。
しかし、てんかん発作に習熟していないと、脳波やMRIなど「客観的な」臨床検査、画像検査のほうに目がいってしまい、発作症状の問診がおろそかになることがあります。私も経験がありますが、てんかん診療の経験が乏しく、発作症状を充分聞きだす知識も技術も備えていない医者は、どうしても検査に頼ってしまうのです。そして、これが誤診の最大の原因になります。明らかなてんかん発作はないのに、脳波に「てんかん放電」がみられるという理由からてんかんと診断される、といった事態を招きかねないのです。臨床検査、画像はあくまでも補助診断にすぎません。
発作性疾患の診療においては、問診が出発点であり、終着点なのです。
てんかんの診療に限りませんが、問診でもっとも重要なのは、充分、時間を確保することです。しかし、一般病院における、忙しく騒然とした外来診療環境では、これは、至難の業です。診療を待ってみえる待合室の患者さん多さ(予約制の場合は、予約時間内に終わらなければならないというプレッシャー)に追い立てられ、時間を確保するということがなかなかできません。しかし、時間に余裕がないと、充分に話を聞くことができないですし、へたをすると、医者は自分の考えを押しつけ、患者さんやご家族のおっしゃる内容を誘導して、間違った情報を得てしまうことさえありえます。
これも、以前述べたことですが、問診においては、医学用語を避け、なるべく日常の言葉で発作内容を話していただくことも大事です。医者のほうも、話していただいた内容を具体的に記載するよう心がけなければなりません。
たとえば、意識の有無については「声をかけても反応がなかった」といったように、話された内容をそのまま書き留めるべきです。医者が「意識がありましたか?」と尋ね、患者さんや患者の家族の方が「なかった」と答えられ、カルテには「意識(ー)」と記載されるなどといったことが実際の診療の場では結構あります。しかし、てんかんの診療としては、これは、最低です。なぜなら、これでは意識をどのように確認したかわかりませんし、のちに、意識があったかどうかも検証できません。
けいれん症状についても、「強直発作」といった「医学用語」を使うことが誤解のもとになることを以前お話しました。「手足がつったように伸ばして硬直させ、体を折り曲げ、目は上を向いていた」といった具合に具体的な症状を話していただき、医者のほうも、それをそのまま記載することが望ましいのです。
発作症状では、発作の始まりがもっとも大事です。ですから、私自身は「発作が始まる前に発作が来そうだとわかりますか」といった質問を必ずするようにしています。患者さんやご家族は、四肢の強直、間代などの「派手な」運動症状、あるいは、「目がうつろ」になって「反応がなくなる」ような意識消失に目がいってしまいがちです。そうした症状が心配をかき立てるのですから当然です。しかし、そのために、こちらからお聞きしないと、視覚症状などの感覚性単純部分発作や前兆などの「軽微な」「どうでもいい」症状はなかなか話してくださいません。しかし、四肢の痙攣といった派手な症状より、視覚症状などの軽微なものの方がてんかん発作の診断においては大事です。なぜなら、それが、異常放電が始まる脳の� � �置を指し示しているかもしれないからです。さらに、発作の始まりから発作症状を順序立てて聞くことができれば、ある皮質にてんかん発射が出現し他の皮質へ拡延していく有様をありありと思い浮かべることもできるかもしれません。そうなれば、しめたもので、てんかん発作の診断はついたも同然です。そのような症状の進展は、てんかん発作以外には考えられないからです。
もちろん、欠神発作やミオクロニー発作のような全般発作ではそのような発作の進展はみられません。しかし、その場合でも、発作症状をきちんと聞かなければ、欠神発作やミオクロニー発作などの診断ができないことに変わりはありません。
問診による発作の確認は初診時にも必要ですが、なかなか発作がコントロールされない「難治てんかん」の場合、再診時にも大切です。初診時から数ヶ月、数年を過ぎると、医者の方も、時間に追われ、問診内容が発作の有無の確認にのみに終始し、肝心の発作内容を聞くことを怠りがちになります。しかし、きちんと確認せずにいると、患者さんや保護者の方が把握している発作内容とわれわれ医者が理解している発作内容がずれてしまうおそれがあります。発作を繰り返すときこそ診療内容を見直すチャンスですから、面倒でも、発作の内容をその都度伝えてください。そうすると、間違いも少なくなります。
もちろん、問診だけで100%正確な鑑別ができるという保証はありません。神ならぬ身ですから、どんな名医でも誤診ゼロということはありえません。しかし、問診を軽視し、臨床検査や画像検査などの「客観的な科学的証拠」へ過度に依存しますと、誤診率をさらに高めてしまいます。100%の正解はえられないということを念頭に置きつつ、なるべく正解に近づけるよう、診療のたびごとに発作内容をきちんと確認する努力を怠らないことが大事です。どうしても判断がつかないときには、脳波―ビデオ同時記録で「発作」が本当にてんかん発作なのか確認する必要がでてくることもあります。脳波-ビデオ同時記録をきちんと行うことができる病院はそれほど多くありませんから、必要があれば、てんかんセンターのような専門施設� � �評価をお願いすることになります。
フランスのてんかん学の大家、アイカルディは「てんかん発作と非てんかん発作の鑑別は理論上も実際上も難しいが、経験豊富な臨床家は発作を見ただけで、いや、それどころか問診だけで、てんかん発作の匂いを嗅ぎ分けるものだ」と書いています2)。アイカルディのような大家だからこそ言える言葉で、わずかな経験だけでそのような域に達したと思いこむのは危険ですが、日々の診療において発作内容を誠実に聞き出す訓練を繰り返し、そうした域に達するよう努力することが医者にとっては大事だろうと思います。
▲このページの一番上へ戻る
発作分類
どのようなてんかん発作症状があり得るか充分心得ておくことが、問診をする上での前提条件であることはいうまでもありません。
てんかん発作には多彩な症状がみられますし、部分発作ではとくにそれが顕著です。しかし、正常な生理現象は無限の様相をみせますが、異常現象は限定的な現れ方をします。このことは、てんかん発作についても当てはまります。てんかん発作の多岐にわたる多彩な症状も、共通点を拾いだせば、限定された範疇に分類することがある程度可能です。
てんかん発作にかんしては、いままで、さまざまな分類法が提唱されてきました。しかし、現在、日本も含め世界中で広く受け入れられているてんかん発作分類は1981年にとり決められた国際てんかん発作分類です3-4) (2010年に新たな分類が国際てんかん連盟から提案され、今後はこの分類が広まる可能性がありますが、提案がなされてから日が浅く、てんかんに関する概説書でも取り上げられていることは少ないので、ここでは旧分類にそってご説明します)。この分類は2分法を基本にしています(表1)。想定されるてんかん発射が部分起始かそれとも左右対称性起始かで2つに分け、このうち、部分発作については、発作中の意識消失があるかないかで、さらに2つに分けるのです。この国際てんかん分類はてんかん発作に関する世界共通言語といってもいい分類です。その具体的内容については「てんかんとは何か?」でご説明いたしましたので、確認してください。ご自分の(ご家族の)発作の発作分類については、それがどういう位置づけに� � �るのか知っておくためにも、担当医に一度確認されるといいでしょう。
ただし、国際てんかん発作分類といえども、あくまでも人為的なものにすぎません。これによっててんかん発作をすべて、もれなく分類できるわけではありません。どれに入れていいのか判断に困る発作も少なくありません。それに、十分な発作情報が得られていないときには、当然、分類は不可能です。ところが、分類に囚われ、目撃された発作内容を分類に無理矢理当てはめようとして実際の発作を歪んだ眼鏡でみてしまうということがときとしてあります。もちろん、それでは本末転倒です。国際分類を参考にしながらも、実際のあるがままの発作症状を検討して、発作の位置づけを考えることが大事です。
▲このページの一番上へ戻る
ILAEてんかん発作分類1981年改訂 3)
表1 ILAEてんかん発作分類1981年改訂
部分(焦点、局所)発作 | 全般発作 |
---|---|
単純部分発作 運動徴候を呈するもの: 雑部分発作 単純部分発作で始まり意識減?するもの ①意識減?のみのもの 部分発作から二次性に全般化するもの 胸膜高血圧とは何か 単純部分発作が全般発作に進展するもの | 1. 欠神発作 1. 定型欠神 |