化学むだばなし04/16
0.はじめに
授業中には、なかなか時間をとって話しをできないことや、すこしは化学に関係するけれども脱線になってしまうことで、ふと思いついたことなどをまとめてみます。化学むだばなしということであまり真剣にならず、肩の力を抜いて始めた方が面倒くさがりやの私も続けられるというものです。
1.変成アルコール
物質の分離にはいろいろな方法が考えられていますが、うまく分離できないことが大切なこともあります。たとえば、アルコールには、酒に入っているエタノール(C2H6O)と燃料に使うメタノール(CH4O、飲むと死んでしまうので劇物になっている。)があります。エタノールには、酒税がかかっているので500mlで1500円くらいするのに、メタノールは、500mlで200円くらいのものです。では、実験などで絶対に酒にして飲んだりしないからエタノールを安く手に入れたいというときにはどうするのでしょうか、そのときには「変成アルコール」というのを使います。これは、酒税がかかっていないので大変安いが、エタノールにメタノールを少し混ぜてあるので、飲むと死んで� ��まいます。しかし、実験に使う分にはエタノールと同じです。この変成アルコールからメタノールを取り除いて、安いエタノールを分離することは、メタノールとエタノールの沸点やその他の性質が似ていることから経済的に成り立つ範囲ではほとんど不可能です。そこで、質問です。牛乳から水以外の成分をそのまま取り出すにはどうすればよいでしょう。蒸留のように熱を加えると牛乳の成分が変化してしまいます。水に砂糖と塩を溶かした液体から砂糖と塩を分離するにはどうしたらよいでしょう。
2.参考書の選び方
参考書の選び方について一言。教科書には、必要なことだけがびっちりと書いてあって無駄がないので一部の人を除いてはしんどいと思います。人間、無駄なことも混ぜていかないとなかなか身に付くものではありません。本当は、化学についてのいろいろな本を読んだり、自分でじっけんなどして何となく知識を増やし、何となくわかるのが一番力がつくのですが・・・ ま、それはおいといて、参考書については、自分で気に入ったのを選べばいいわけです。ただ、薄い参考書が簡単だと思っている人がいたらそれは間違いです。薄い参考書は要点だけしかのっていないので、わかっていない人が読んでも理解できない。わかっている人が知識の整理に使うくらいのものです。同じ範囲であれば、親切丁寧にたくさんの文字を使っ� ��くどいくらいに書いてある方がわかりやすいというものです。個人的に好きなのは、河合塾から出ている 詳説 理系化学 です。
化学むだばなし04/19
3.定比例の法則
授業では、定比例の法則を当然成り立つものとして話をしていますが、実際に実験をしているときにはそんなにうまくいくものではありません。中学校のときにマグネシウムの燃焼の実験をしたでしょうか。ふつうの物質は、燃えて灰になると軽くなります(木材などでは10分の1以下になる。)が、マグネシウムでは逆に重くなるのでなかなかおもしろい実験なのです。でも、実際には反応しないものが残ったり、はげしく燃える勢いで周りに飛び散ったりしてなかなか決まった重さの酸化マグネシウムを得られないので、定比例の法則どうりというわけにはいきません。教科書に出てくる法則の多くは、先人がいろいろな周りの批判に耐えながら何年もかかって見つけだしてきたものです。定比例の法則を発見したプルーストも、� �のころの常識であった「化合物の組成は、それが作られたときの条件によって変化する。」を主張するベルトレ(フランスでその当時最も有名な化学者でナポレオンの信頼も厚かった)と8年間も論争し、いくつもの正確な実験をしています。
4.濾紙の種類
ろ過に使う濾紙の種類には、どんなものがあるか知っていますか。ふつうの白の他に赤い濾紙や緑の濾紙があるというのではありません。実験で一番よく使うのは定性分析用の濾紙です。つまり、何が(どんな物質が)残ったかという事を調べるための濾紙です。その次に使うのが定量分析用の濾紙です。これは、ある物質が何グラムあったのか。つまり、物質の量を調べるためのものです。では、定性分析用の濾紙とどこが違うかというと、別に紙が分厚いとか、紙の目が細かいということではなく、濾紙を燃やしたときの灰の重さが正確に(1/1000グラムの精度で)決まっているということです。どうして濾紙の灰の重さが関係するかというと、濾紙の上にたまった物質の重さはそのままでは水分があって正確には計れません。そこ� ��、濾紙ごと坩堝に入れて濾紙が燃えて灰になるところまで加熱し、重さを量るのです。このとき濾紙の灰の重さが決まっていないと物質の重さが決まらないのです。
5.元素名の由来
元素のなまえの由来をいくつか紹介しましょう。フッ素Fluorineはフッ化カルシウムである蛍石Fluoriteから、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、イッテルビウム(Yb)は、イッテルビーという町の近くで見つかったので、町の名前を分けて元素名としたわけです。ギリシャ神話から由来したものには、ウランU、ネプツニウムNp、プルトニウムPuがあります。この順番は太陽系の天王星(ウラノス)海王星(ネプチューン)冥王星(プルトー)と同じです。原子炉を使って人工的に作った元素では、アメリシウムAmのような国名、アインスタイニウムEsのような人名にちなんだものがあります。
化学むだばなし04/22
6.同位体
宇宙の始まりはビッグバンといわれていますが、このときできた元素は水素など原子番号の小さな軽い元素が中心で、原子番号の大きな大きな重い元素は、その後できた恒星が最期を迎えるときの超新星爆発でできたと言われています。このようにドカンと爆発するときに原子どおしがぶつかって大きな原子を作るものだから、たまたま陽子の数が同じ(原子番号が同じ)でも、原子核の中に入った中性子の数が違うということもあるわけで、これが、同位体というものがある理由?。
7.奇数の原子番号
高校生のころ、自分の部屋の壁に大きな周期律表を貼ろうとして、詳しい周期律表を見ながら模造紙に写したことがありました。そのとき、ナトリウムや金の原子量がやたら詳しい(10桁くらいあったと思う)のに気づきました。はじめは、「金」は大切だから正確に測定するのかなと思いましたが、あまり知らない元素でも詳しいものがあります。全体を写してから全体をよく見ていると、詳しいのは全部原子番号が奇数ではありませんか。(自分では大発見と思った。)面白くなって、理科年表を調べてみると、原子番号が偶数の元素には同位体がたくさん存在し(48Cdには、11も同位体がある)、奇数の元素では、あまり存在しない(11Naや79Auでは同位体がない)ことがわかりました。つまり、同位 体がたくさんあると、場所によってその割合が少しずつ違うので、正確な値が定まらないということでした。なぜ原子番号が奇数のときは安定な原子が少ないのでしょう。
8.原子の崩壊
同位体の話をもう一つ。同位体の中には、陽子が多すぎたり、中性子が多すぎたりするものがあります。これらは不安定で時間と共に崩壊して別の原子に変わっていきます。14Cは、原子炉で作ることもできますが、ふつうは宇宙線と大気とが反応してできるもので、空気中の二酸化炭素の中にごく少しですが一定の割合で混ざっています。この原子は陽子6個に対して中性子が8個と多いので、余分の中性子が陽子と電子に分解し、できた電子が原子核の中から飛び出してきます。(この結果、陽子の数が1つ増えるので原子番号も一つ増えて7となり炭素は窒素になってしまう。)この変化は、5730年でもとの14Cの原子の半分が崩壊するような割合で進みます。つまり、5730年で半分、倍の11460年で4分の1、� �倍の17160年で8分の1・・・というように。遺跡から昔の木や種が見つかったときに、これを利用するとその木や種が何年くらい前のものであったかがわかる。 陽子が多い場合には、陽子は、陽電子(電子の反粒子で、+の電荷を持っていること以外は電子と同じ。電子と衝突すると光となって物質としては消滅する。)と中性子に分解するか、原子核に一番近いK殻をまわっている電子を原子核の中の陽子が捕まえて、陽子は中性子になります。原子の世界もなかなか厳しい!
化学むだばなし04/23
9.K殻の電子
前のところでK殻の電子が原子核に捕まる話をしましたが、原子核から離れたところを回っているのにどうして捕まってしまうのでしょう。この事実がわかったとき、学者はどう考えたでしょう。その答えは、「実は、原子の周りを回っているわけではないのだ。」です。理科、つまり自然科学ではどんなに偉い先生が言っていることでも、実験という自然の答えに合っていなければダメというところが面白いところです。実際には、右の図のように電子は、原子核の周りを行ったり来たりしているというイメージが現実に近いのではないでしょうか。理論からも空間の中でK殻の電子が存在する確率が最も高いのが原子核のところなので、原子核にとらえられるのも無理はないところです。注意!電子のように小さい物質では、粒子� ��としての性質より波としての性質の方が強いので、粒子として電子を考えるのはあくまでも近似的なものであることに留意すること。
10.ヘリウム
小さい頃、夜店で空中に浮かぶ大きな風船を買ってもらったことはないですか?子ども心にに不思議だったので、針でつついてみたらバンと大きな音がしてつぶった目を開いたら破れた風船が足下に落ちていただけという経験があります。あの風船に入っていた気体がヘリウムです。少し前にヘリウムを吸って喋るとカエルのような声になるのがはやったこともあります。ヘリウムの電子配置は原子の中で最も安定なものでヘリウム同士を含めて他の原子とほとんど相互作用をしません。(力を及ぼすようなことをしない。)その結果、水素や酸素のようにH2やO2とならず、Heと単独で存在し、また他の原子と化合物を作ることもありません。そればかりではなく、ふつうの物質は温度を下げていくと、原子や分子ど� �しがくっついて固体になりますが、1気圧の下ではヘリウムはどんなに温度を下げても液体のままで、固体にならない唯一の物質です。
11.見学のススメ
化学というと「白衣を着た研究者が、フラスコや試験管のならんだ暗い部屋で、ポコポコと湯気か煙かわからないような気体が発生していて、そこにいろんな色の薬品を混ぜていくと……透明人間になる薬のできあがり。でも、ときどきドカンと爆発して真っ黒けになっている。」そんなイメージはありませんか。本当のところ、大学の実験室は、中学校の理科室や高校の化学の実験室とはずいぶん違って、たくさんの装置があり明るくきれいなところ(そうでないと実験の能率が上がらない)です。大学で理系の勉強をしてみようと思っている人は、一度、大学の実験室や研究室の見学をお勧めします。(一日入学や見学会を紹介します。)
化学むだばなし04/24
12.水素化物イオン
水素原子がイオンになるとどうなるか。「最少の電子のやり取りで閉殻構造になる。」というルールからいえば、1個電子を出して、H+になるのと同様に1個電子をもらってH−になっても良さそうなものですが、中学校でならったとおり、ふつうはH+になります。イオンになるというのが他の原子と出会ったときに電子を出しやすい原子は電子を出して陽イオンになり、電子をもらいやすい方はその電子をもらって陰イオンになるということから考えてみましょう。水素原子は電子を出しやすい方なので、ふつうは、自分の方が電子を出しやすい原子になるので、水素原子は陽イオンになるということになります。だから逆に、ナトリウム原子などのように水素よりも電子を出しやすい原子と反応すると� ��、水素原子は電子をもらってH−(水素化物イオン)となります。これを反応式で書くと、
2Na → 2Na+ + 2e− ナトリウム原子が電子を出し、
H2 + 2e− → 2H− 水素原子がその電子を貰う。
+ 2Na+ + 2H− → 2NaH 2つのイオンが一緒になる。
2Na + H2 → 2NaH(水素化ナトリウム) まとめた反応式
となります。ただ、H−で存在するのはナトリウムのような原子といるときだけで、他のふつうの原子と出会えば、もとの水素やH+になってしまいます。
13.電子配置
KやCaの電子配置では、なぜM殻がいっぱいになっていないのにN殻に電子が入るのでしょう??高校では、電子配置は原子核に近いところからK殻L殻M殻とアルファベットを使って表しますが、量子化学では、1、2、3と数字で表しこの数字を主量子数と言います。K殻には2個の電子しか入りませんが、L殻、M殻となるにつれたくさんの電子が入るようになります。ここからが少し難しいのですが、K殻の中の2つの電子は1つのグループになっていますが、L殻の中の8個の電子は2個と6個の2つグループに分けられ、M殻の中の18個の電子は2個と6個と10個の3つのグループに分けられます。このように主量子数がnの電子殻には、n種類の電子のグループがあり、s、p、d、f…と名前が付いています。だから、� ��子配置について詳しい話をするときには、上の図にあるように1sや3dと主量子数と合わせて表示します。ここまでくれば、「電子は、原子核に近いK殻から順に配置される。」というのは、上の図を使うと「電子は、エネルギーの低いところから順に配置される。」ということになり、具体的には、1s(2)→2s(2)→2p(6)→3s(2)→3p(6)→ 4s(2)→3d(10)…の順に電子が入っていくことになります。ただし、()の中の数はそこに入る電子数。さあ、この方法でCaの電子配置を書いてみましょう。
化学むだばなし04/25
14.炎色反応
中学校のとき、理科の先生が外国の理科の教科書をもっていて、その本に炎色反応の写真が載っていたのを今でも覚えている。その写真の色があまりにきれいだったので、高校のとき実際にしてみたらたいしたことはなかって、失望しました。炎色反応の原理は、まず、原子の周りの電子(ふつうは最外殻電子)が炎の熱のエネルギーを吸収して、一つ外側の電子殻に上がり(エネルギーの高い状態になりこれを励起状態という)、しばらくしてほとぼりがさめたところで元の電子殻に戻るときに余ったエネルギーを光の形で放出し、その光が炎色反応として目に映るというものです。原子によって家庭の事情が違うので電子殻の間のエネルギーにも大小があり、それが色の違いとなって現れます。原子が励起状態になるために外部か� ��供給されるエネルギーは、炎の熱に限らず、放電や光や電流でもうまくいきます。トンネルの中の黄色のランプは放電によってナトリウム原子が励起され、それが元に戻るときに放出される光の色でのナトリウムの炎色反応の色と同じです。蛍光マーカーのインクが光って見えるのも紫外線という光を蛍光インクの色素が吸収して励起され、元に戻るときに黄色や緑の光を出すからです。CDプレーヤでは電流によってGaAs(砒化ガリウム)から放出される赤外線レーザー光でCDに記録された情報を読みとっています。このように炎色反応と同じ原理は身の回りのいたる所で利用されています。君たちも探してみましょう。
15.予備知識
化学むだばなしには難しい言葉が多いと感じる人へ。それはだんだん予備知識がなくなってき兆候ではないでしょうか。そのうち、教科書に書いてあることも…。もし、あなたが、将来、何かを研究するような仕事に就きたいと思っているなら、教科書のような与えられた知識で満足していてはいけません。たくさんの本を読んだり、できることなら自分で何かやってみることが必要になります。いっぱい本を読んで、いっぱいいろんなことをして、いっぱい予備知識や経験があって、授業は知識の整理かまとめくらいの余裕のあなたなら、アイデアもやりたいこともどんどんでてくるはずでしょう。研究者にとって、研究のアイデアもしたいこともなくなったらもうおしまい。自分の勉強と学校の勉強は、ウサギとカメの追いかけっ� ��のようなもので、予備知識がなくなったときが追いつかれたときになります。授業の中で、だんだん知らないこと、初めて聞くことが増えてきたら、もうすぐ追いいつかれる赤信号です。追い抜かされては一大事。さあ、図書館へいって手あたり次第に読んでみよう。(最初はブルーバックスあたりがお勧めです。)
16.化学の本の本
前に理数のクラスを持ったときに、みんなに化学の本を読んで紹介を書いて貰ったことがあります。また機会があれば紹介しましょう。
化学むだばなし04/30
17.周期表の族
なぜ、周期表は18の族に元素を分類するのでしょう。以前よく使われていた短周期表という周期表は、8を基準にして元素を分類していました。この18や8から容易に想像できるように、これらは電子殻に入る電位の数と関係しています。原子の化学的な性質は、最外殻電子(価電子)の数によって決まるので、L殻やM殻では、電子が8個入ると(一応の)満員になるので、原子番号が8増えるごとに同じ最外殻電子数の原子が現れ、それらはよく似た性質を示します。N殻やO殻では、その数が18になるのです。だから、化学的な性質のよく似た元素を縦に並べようとすると8や18といった数で分類することが必要になるのです。では、なぜ分類する数が8から18に変わってきたのでしょう。一つには、価電子と族番号の関係が変わっ てきたからではないでしょうか。以前は族番号と価電子の数は同じものでした(原子番号20までなら表のようにうまくまとめられる。)。しかし、こうすると原子番号が20より大きな原子はうまく整理できません。そこで、価電子との関係はなくなっても18で分類することで全体をうまくまとめるようになってきたのでしょう。現在の周期表でも、ランタノイドやアクチノイドのようにはみ出した部分があります。はみ出さないようにするには、いくつで分類すればよいでしょう。でも、たぶん横に広がりすぎて使いにくいものでしょう。
18.メンデレーエフ
メンデレーエフは、当時発見されていた元素を原子量の順にならべるとよく似た性質が周期的に現れることに気がついて、周期律表を作ったといわれています。同じようなことを考えていた人もいたらしいのですが、彼の偉い所は、原子量の順に固執せず、化学的性質も考えて場合によっては、原子量の測定方法を疑ったり、原子量の順を敢えて入れ替えたりしたことです。目先のことにとらわれず、本当に大事なことを見失わない彼の姿勢には学ぶものがあります。それでは、問題。27Coと28Niでは、原子番号が増えているのに原子量は減っています。このようなところは他にいくつあるでしょう。
19.雨の週末に
雨の週末におすすめ、「一泊二日知恵蔵の旅」とは、雨の週末には、知恵蔵のページをあちらこちらと興味の向くままにわたり歩いて、優雅に時間を過ごしましょう。と、いうこと。別に「知恵蔵」でなくても「現代用語の基礎知識」でも「imidas」でも結構。パレスチナ問題から、コンピュータ、アフリカ音楽と知的好奇心にまかせてページをめくれば、新しい世界に出会えるはず。(本当は、百科事典でした方がもっとおもしろい。問題集だけが勉強じゃないよ。)
化学むだばなし05/01
20.非金属と金属の間
周期律表では右上が非金属、左下が金属とはっきり色分けされていますが、実際のところ境界の付近ではそんなにはっきりと分けられるものではありません。金属か非金属かの基本は、電子を出しやすく陽イオンになりやすければ金属。逆に電子を出しにくければ非金属。錫(tin)という「金属」は、ふつうの温度では熱のエネルギーで原子から電子がとれて陽イオンになるので、金属のふりをしています。つまり、ピカピカしていて電気をよく通して見るからに金属なのですが、ロシアの冬のようにマイナス何十度になると電子を出せなくなって非金属になってしまい灰色の粉になってしまいます。昔の人はこの現象をペストにたとえて、「tin-pest」と呼んでいました。ナポレオンがロシアに攻め込んだとき、冬の寒さの中で身の回� �の金具や銃の留め金などに使っていた錫がどれもこれもぼろぼろになり、武器が使えなくなってしまったということです。その結果、戦争どころではなくなったのが、負けた原因の一つといわれています。ICなどに使うケイ素(Si)の場合は、他の金属の原子が混ざっているときはその原子が出した電子で金属の様に見えますが、徹底的に純度を上げて99.999999999%くらいになると電子を出してくれる原子がなくなって非金属のようになるそうです。
21.X線解析
食塩、つまり塩化ナトリウムがイオン結合しているのはどうしてわかったのでしょう。教科書に書いてあるからというのはダメです。つまり、最初に見つけた人はどうしてそれがわかったのかということです。1910年代になるとブラッグ父子やラウエによってX線を使って結晶の構造解析が進められるようになりました。X線というのは非常に短い波長の波でこの波長がちょうど原子の大きさと同じくらいのために結晶に当てると原子の周りの電子にX線が反射されて特定の方向に限って強め合う「干渉」という現象が起こります。この特定の方向やその強さを詳しく調べると結晶の中の原子の位置やそれぞれの原子の持つ電子の数がわかるのです。その結果、塩化ナトリウムの結晶では、電子数11のNaと電子数18のClとが存在するのでは� ��く、電子数が10の粒子(Na+)と18の粒子(Cl−)が交互に並んで立方格子をつくっていることがわかったのです。
22.共有結合
イオン結合はわかりやすいのですが、共有結合では、共有電子対を作ったからといってどうして原子どおしが結合するのかわかりにくいものです。そこで、まず教科書に載っているL殻やM殻で電子が8個ぐるぐる回っているイメージは捨てて、原子核の周りに電子が2個ずつ対になって4対が存在している様子を思い浮かべてください。共有電子対は電子が2個集まったもので負の電気を持っており、共有電子対をはさむ2個の原子核は正の電気を帯びています。そこで、共有電子対が静電気的に両側の原子核を引きつけることによって2つの原子が結合すると考えてはどうでしょう。
化学むだばなし05/02
23.電気的中性の原理
イオン結合している物質では、陽イオンの正の電気と陰イオンの負の電気が釣り合っていて、手で触ったときにビリビリきたりしないというのが「電気的中性の原理」というものです。教科書には、一種類の陽イオンと一種類の陰イオンの組み合わせで説明してありますが、電気的中性の原理が成り立っていれば、それぞれのイオンの種類は一種類である必要はありません。たとえば、硫酸カリウムと硫酸アルミニウムを水に混ぜて温度を下げるか、水を蒸発させていくと、正八面体のきれいな結晶が出てきます。これがミョウバン(明礬、alum)と呼ばれるもので、組成式はKAl(SO4)2・12H2Oで名前を硫酸カリウムアルミニウムといい、K+:Al3+:SO42−=1:1:2の割合になっていま� �。このような化合物を「複塩」といい、この名前はミョウバンでは陽イオンが2種類(複数)あることに由来します。組成式の後ろについている12H2Oは、結晶水といわれるもので各イオンの隙間を埋めている水の分子を表していますが、ミョウバンの場合には、水分子の数が多いので水分子の間に各イオンが入った感じです。ここで質問、ミョウバンから見つかった元素は何でしょう。