化学むだばなし04/16
0.はじめに
授業中には、なかなか時間をとって話しをできないことや、すこしは化学に関係するけれども脱線になってしまうことで、ふと思いついたことなどをまとめてみます。化学むだばなしということであまり真剣にならず、肩の力を抜いて始めた方が面倒くさがりやの私も続けられるというものです。
1.変成アルコール
物質の分離にはいろいろな方法が考えられていますが、うまく分離できないことが大切なこともあります。たとえば、アルコールには、酒に入っているエタノール(C2H6O)と燃料に使うメタノール(CH4O、飲むと死んでしまうので劇物になっている。)があります。エタノールには、酒税がかかっているので500mlで1500円くらいするのに、メタノールは、500mlで200円くらいのものです。では、実験などで絶対に酒にして飲んだりしないからエタノールを安く手に入れたいというときにはどうするのでしょうか、そのときには「変成アルコール」というのを使います。これは、酒税がかかっていないので大変安いが、エタノールにメタノールを少し混ぜてあるので、飲むと死んで� ��まいます。しかし、実験に使う分にはエタノールと同じです。この変成アルコールからメタノールを取り除いて、安いエタノールを分離することは、メタノールとエタノールの沸点やその他の性質が似ていることから経済的に成り立つ範囲ではほとんど不可能です。そこで、質問です。牛乳から水以外の成分をそのまま取り出すにはどうすればよいでしょう。蒸留のように熱を加えると牛乳の成分が変化してしまいます。水に砂糖と塩を溶かした液体から砂糖と塩を分離するにはどうしたらよいでしょう。
2.参考書の選び方
参考書の選び方について一言。教科書には、必要なことだけがびっちりと書いてあって無駄がないので一部の人を除いてはしんどいと思います。人間、無駄なことも混ぜていかないとなかなか身に付くものではありません。本当は、化学についてのいろいろな本を読んだり、自分でじっけんなどして何となく知識を増やし、何となくわかるのが一番力がつくのですが・・・ ま、それはおいといて、参考書については、自分で気に入ったのを選べばいいわけです。ただ、薄い参考書が簡単だと思っている人がいたらそれは間違いです。薄い参考書は要点だけしかのっていないので、わかっていない人が読んでも理解できない。わかっている人が知識の整理に使うくらいのものです。同じ範囲であれば、親切丁寧にたくさんの文字を使っ� ��くどいくらいに書いてある方がわかりやすいというものです。個人的に好きなのは、河合塾から出ている 詳説 理系化学 です。
化学むだばなし04/19
3.定比例の法則
授業では、定比例の法則を当然成り立つものとして話をしていますが、実際に実験をしているときにはそんなにうまくいくものではありません。中学校のときにマグネシウムの燃焼の実験をしたでしょうか。ふつうの物質は、燃えて灰になると軽くなります(木材などでは10分の1以下になる。)が、マグネシウムでは逆に重くなるのでなかなかおもしろい実験なのです。でも、実際には反応しないものが残ったり、はげしく燃える勢いで周りに飛び散ったりしてなかなか決まった重さの酸化マグネシウムを得られないので、定比例の法則どうりというわけにはいきません。教科書に出てくる法則の多くは、先人がいろいろな周りの批判に耐えながら何年もかかって見つけだしてきたものです。定比例の法則を発見したプルーストも、� �のころの常識であった「化合物の組成は、それが作られたときの条件によって変化する。」を主張するベルトレ(フランスでその当時最も有名な化学者でナポレオンの信頼も厚かった)と8年間も論争し、いくつもの正確な実験をしています。
4.濾紙の種類
ろ過に使う濾紙の種類には、どんなものがあるか知っていますか。ふつうの白の他に赤い濾紙や緑の濾紙があるというのではありません。実験で一番よく使うのは定性分析用の濾紙です。つまり、何が(どんな物質が)残ったかという事を調べるための濾紙です。その次に使うのが定量分析用の濾紙です。これは、ある物質が何グラムあったのか。つまり、物質の量を調べるためのものです。では、定性分析用の濾紙とどこが違うかというと、別に紙が分厚いとか、紙の目が細かいということではなく、濾紙を燃やしたときの灰の重さが正確に(1/1000グラムの精度で)決まっているということです。どうして濾紙の灰の重さが関係するかというと、濾紙の上にたまった物質の重さはそのままでは水分があって正確には計れません。そこ� ��、濾紙ごと坩堝に入れて濾紙が燃えて灰になるところまで加熱し、重さを量るのです。このとき濾紙の灰の重さが決まっていないと物質の重さが決まらないのです。
5.元素名の由来
元素のなまえの由来をいくつか紹介しましょう。フッ素Fluorineはフッ化カルシウムである蛍石Fluoriteから、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、イッテルビウム(Yb)は、イッテルビーという町の近くで見つかったので、町の名前を分けて元素名としたわけです。ギリシャ神話から由来したものには、ウランU、ネプツニウムNp、プルトニウムPuがあります。この順番は太陽系の天王星(ウラノス)海王星(ネプチューン)冥王星(プルトー)と同じです。原子炉を使って人工的に作った元素では、アメリシウムAmのような国名、アインスタイニウムEsのような人名にちなんだものがあります。
化学むだばなし04/22
6.同位体
宇宙の始まりはビッグバンといわれていますが、このときできた元素は水素など原子番号の小さな軽い元素が中心で、原子番号の大きな大きな重い元素は、その後できた恒星が最期を迎えるときの超新星爆発でできたと言われています。このようにドカンと爆発するときに原子どおしがぶつかって大きな原子を作るものだから、たまたま陽子の数が同じ(原子番号が同じ)でも、原子核の中に入った中性子の数が違うということもあるわけで、これが、同位体というものがある理由?。
7.奇数の原子番号
高校生のころ、自分の部屋の壁に大きな周期律表を貼ろうとして、詳しい周期律表を見ながら模造紙に写したことがありました。そのとき、ナトリウムや金の原子量がやたら詳しい(10桁くらいあったと思う)のに気づきました。はじめは、「金」は大切だから正確に測定するのかなと思いましたが、あまり知らない元素でも詳しいものがあります。全体を写してから全体をよく見ていると、詳しいのは全部原子番号が奇数ではありませんか。(自分では大発見と思った。)面白くなって、理科年表を調べてみると、原子番号が偶数の元素には同位体がたくさん存在し(48Cdには、11も同位体がある)、奇数の元素では、あまり存在しない(11Naや79Auでは同位体がない)ことがわかりました。つまり、同位 体がたくさんあると、場所によってその割合が少しずつ違うので、正確な値が定まらないということでした。なぜ原子番号が奇数のときは安定な原子が少ないのでしょう。
8.原子の崩壊
同位体の話をもう一つ。同位体の中には、陽子が多すぎたり、中性子が多すぎたりするものがあります。これらは不安定で時間と共に崩壊して別の原子に変わっていきます。14Cは、原子炉で作ることもできますが、ふつうは宇宙線と大気とが反応してできるもので、空気中の二酸化炭素の中にごく少しですが一定の割合で混ざっています。この原子は陽子6個に対して中性子が8個と多いので、余分の中性子が陽子と電子に分解し、できた電子が原子核の中から飛び出してきます。(この結果、陽子の数が1つ増えるので原子番号も一つ増えて7となり炭素は窒素になってしまう。)この変化は、5730年でもとの14Cの原子の半分が崩壊するような割合で進みます。つまり、5730年で半分、倍の11460年で4分の1、� �倍の17160年で8分の1・・・というように。遺跡から昔の木や種が見つかったときに、これを利用するとその木や種が何年くらい前のものであったかがわかる。 陽子が多い場合には、陽子は、陽電子(電子の反粒子で、+の電荷を持っていること以外は電子と同じ。電子と衝突すると光となって物質としては消滅する。)と中性子に分解するか、原子核に一番近いK殻をまわっている電子を原子核の中の陽子が捕まえて、陽子は中性子になります。原子の世界もなかなか厳しい!
化学むだばなし04/23
9.K殻の電子
前のところでK殻の電子が原子核に捕まる話をしましたが、原子核から離れたところを回っているのにどうして捕まってしまうのでしょう。この事実がわかったとき、学者はどう考えたでしょう。その答えは、「実は、原子の周りを回っているわけではないのだ。」です。理科、つまり自然科学ではどんなに偉い先生が言っていることでも、実験という自然の答えに合っていなければダメというところが面白いところです。実際には、右の図のように電子は、原子核の周りを行ったり来たりしているというイメージが現実に近いのではないでしょうか。理論からも空間の中でK殻の電子が存在する確率が最も高いのが原子核のところなので、原子核にとらえられるのも無理はないところです。注意!電子のように小さい物質では、粒子� ��としての性質より波としての性質の方が強いので、粒子として電子を考えるのはあくまでも近似的なものであることに留意すること。
10.ヘリウム
小さい頃、夜店で空中に浮かぶ大きな風船を買ってもらったことはないですか?子ども心にに不思議だったので、針でつついてみたらバンと大きな音がしてつぶった目を開いたら破れた風船が足下に落ちていただけという経験があります。あの風船に入っていた気体がヘリウムです。少し前にヘリウムを吸って喋るとカエルのような声になるのがはやったこともあります。ヘリウムの電子配置は原子の中で最も安定なものでヘリウム同士を含めて他の原子とほとんど相互作用をしません。(力を及ぼすようなことをしない。)その結果、水素や酸素のようにH2やO2とならず、Heと単独で存在し、また他の原子と化合物を作ることもありません。そればかりではなく、ふつうの物質は温度を下げていくと、原子や分子ど� �しがくっついて固体になりますが、1気圧の下ではヘリウムはどんなに温度を下げても液体のままで、固体にならない唯一の物質です。
11.見学のススメ
化学というと「白衣を着た研究者が、フラスコや試験管のならんだ暗い部屋で、ポコポコと湯気か煙かわからないような気体が発生していて、そこにいろんな色の薬品を混ぜていくと……透明人間になる薬のできあがり。でも、ときどきドカンと爆発して真っ黒けになっている。」そんなイメージはありませんか。本当のところ、大学の実験室は、中学校の理科室や高校の化学の実験室とはずいぶん違って、たくさんの装置があり明るくきれいなところ(そうでないと実験の能率が上がらない)です。大学で理系の勉強をしてみようと思っている人は、一度、大学の実験室や研究室の見学をお勧めします。(一日入学や見学会を紹介します。)
化学むだばなし04/24
12.水素化物イオン
水素原子がイオンになるとどうなるか。「最少の電子のやり取りで閉殻構造になる。」というルールからいえば、1個電子を出して、H+になるのと同様に1個電子をもらってH−になっても良さそうなものですが、中学校でならったとおり、ふつうはH+になります。イオンになるというのが他の原子と出会ったときに電子を出しやすい原子は電子を出して陽イオンになり、電子をもらいやすい方はその電子をもらって陰イオンになるということから考えてみましょう。水素原子は電子を出しやすい方なので、ふつうは、自分の方が電子を出しやすい原子になるので、水素原子は陽イオンになるということになります。だから逆に、ナトリウム原子などのように水素よりも電子を出しやすい原子と反応すると� ��、水素原子は電子をもらってH−(水素化物イオン)となります。これを反応式で書くと、
2Na → 2Na+ + 2e− ナトリウム原子が電子を出し、
H2 + 2e− → 2H− 水素原子がその電子を貰う。
+ 2Na+ + 2H− → 2NaH 2つのイオンが一緒になる。
2Na + H2 → 2NaH(水素化ナトリウム) まとめた反応式
となります。ただ、H−で存在するのはナトリウムのような原子といるときだけで、他のふつうの原子と出会えば、もとの水素やH+になってしまいます。
13.電子配置
KやCaの電子配置では、なぜM殻がいっぱいになっていないのにN殻に電子が入るのでしょう??高校では、電子配置は原子核に近いところからK殻L殻M殻とアルファベットを使って表しますが、量子化学では、1、2、3と数字で表しこの数字を主量子数と言います。K殻には2個の電子しか入りませんが、L殻、M殻となるにつれたくさんの電子が入るようになります。ここからが少し難しいのですが、K殻の中の2つの電子は1つのグループになっていますが、L殻の中の8個の電子は2個と6個の2つグループに分けられ、M殻の中の18個の電子は2個と6個と10個の3つのグループに分けられます。このように主量子数がnの電子殻には、n種類の電子のグループがあり、s、p、d、f…と名前が付いています。だから、� ��子配置について詳しい話をするときには、上の図にあるように1sや3dと主量子数と合わせて表示します。ここまでくれば、「電子は、原子核に近いK殻から順に配置される。」というのは、上の図を使うと「電子は、エネルギーの低いところから順に配置される。」ということになり、具体的には、1s(2)→2s(2)→2p(6)→3s(2)→3p(6)→ 4s(2)→3d(10)…の順に電子が入っていくことになります。ただし、()の中の数はそこに入る電子数。さあ、この方法でCaの電子配置を書いてみましょう。
化学むだばなし04/25
14.炎色反応
中学校のとき、理科の先生が外国の理科の教科書をもっていて、その本に炎色反応の写真が載っていたのを今でも覚えている。その写真の色があまりにきれいだったので、高校のとき実際にしてみたらたいしたことはなかって、失望しました。炎色反応の原理は、まず、原子の周りの電子(ふつうは最外殻電子)が炎の熱のエネルギーを吸収して、一つ外側の電子殻に上がり(エネルギーの高い状態になりこれを励起状態という)、しばらくしてほとぼりがさめたところで元の電子殻に戻るときに余ったエネルギーを光の形で放出し、その光が炎色反応として目に映るというものです。原子によって家庭の事情が違うので電子殻の間のエネルギーにも大小があり、それが色の違いとなって現れます。原子が励起状態になるために外部か� ��供給されるエネルギーは、炎の熱に限らず、放電や光や電流でもうまくいきます。トンネルの中の黄色のランプは放電によってナトリウム原子が励起され、それが元に戻るときに放出される光の色でのナトリウムの炎色反応の色と同じです。蛍光マーカーのインクが光って見えるのも紫外線という光を蛍光インクの色素が吸収して励起され、元に戻るときに黄色や緑の光を出すからです。CDプレーヤでは電流によってGaAs(砒化ガリウム)から放出される赤外線レーザー光でCDに記録された情報を読みとっています。このように炎色反応と同じ原理は身の回りのいたる所で利用されています。君たちも探してみましょう。
15.予備知識
化学むだばなしには難しい言葉が多いと感じる人へ。それはだんだん予備知識がなくなってき兆候ではないでしょうか。そのうち、教科書に書いてあることも…。もし、あなたが、将来、何かを研究するような仕事に就きたいと思っているなら、教科書のような与えられた知識で満足していてはいけません。たくさんの本を読んだり、できることなら自分で何かやってみることが必要になります。いっぱい本を読んで、いっぱいいろんなことをして、いっぱい予備知識や経験があって、授業は知識の整理かまとめくらいの余裕のあなたなら、アイデアもやりたいこともどんどんでてくるはずでしょう。研究者にとって、研究のアイデアもしたいこともなくなったらもうおしまい。自分の勉強と学校の勉強は、ウサギとカメの追いかけっ� ��のようなもので、予備知識がなくなったときが追いつかれたときになります。授業の中で、だんだん知らないこと、初めて聞くことが増えてきたら、もうすぐ追いいつかれる赤信号です。追い抜かされては一大事。さあ、図書館へいって手あたり次第に読んでみよう。(最初はブルーバックスあたりがお勧めです。)
16.化学の本の本
前に理数のクラスを持ったときに、みんなに化学の本を読んで紹介を書いて貰ったことがあります。また機会があれば紹介しましょう。
化学むだばなし04/30
17.周期表の族
なぜ、周期表は18の族に元素を分類するのでしょう。以前よく使われていた短周期表という周期表は、8を基準にして元素を分類していました。この18や8から容易に想像できるように、これらは電子殻に入る電位の数と関係しています。原子の化学的な性質は、最外殻電子(価電子)の数によって決まるので、L殻やM殻では、電子が8個入ると(一応の)満員になるので、原子番号が8増えるごとに同じ最外殻電子数の原子が現れ、それらはよく似た性質を示します。N殻やO殻では、その数が18になるのです。だから、化学的な性質のよく似た元素を縦に並べようとすると8や18といった数で分類することが必要になるのです。では、なぜ分類する数が8から18に変わってきたのでしょう。一つには、価電子と族番号の関係が変わっ てきたからではないでしょうか。以前は族番号と価電子の数は同じものでした(原子番号20までなら表のようにうまくまとめられる。)。しかし、こうすると原子番号が20より大きな原子はうまく整理できません。そこで、価電子との関係はなくなっても18で分類することで全体をうまくまとめるようになってきたのでしょう。現在の周期表でも、ランタノイドやアクチノイドのようにはみ出した部分があります。はみ出さないようにするには、いくつで分類すればよいでしょう。でも、たぶん横に広がりすぎて使いにくいものでしょう。
18.メンデレーエフ
メンデレーエフは、当時発見されていた元素を原子量の順にならべるとよく似た性質が周期的に現れることに気がついて、周期律表を作ったといわれています。同じようなことを考えていた人もいたらしいのですが、彼の偉い所は、原子量の順に固執せず、化学的性質も考えて場合によっては、原子量の測定方法を疑ったり、原子量の順を敢えて入れ替えたりしたことです。目先のことにとらわれず、本当に大事なことを見失わない彼の姿勢には学ぶものがあります。それでは、問題。27Coと28Niでは、原子番号が増えているのに原子量は減っています。このようなところは他にいくつあるでしょう。
19.雨の週末に
雨の週末におすすめ、「一泊二日知恵蔵の旅」とは、雨の週末には、知恵蔵のページをあちらこちらと興味の向くままにわたり歩いて、優雅に時間を過ごしましょう。と、いうこと。別に「知恵蔵」でなくても「現代用語の基礎知識」でも「imidas」でも結構。パレスチナ問題から、コンピュータ、アフリカ音楽と知的好奇心にまかせてページをめくれば、新しい世界に出会えるはず。(本当は、百科事典でした方がもっとおもしろい。問題集だけが勉強じゃないよ。)
化学むだばなし05/01
20.非金属と金属の間
周期律表では右上が非金属、左下が金属とはっきり色分けされていますが、実際のところ境界の付近ではそんなにはっきりと分けられるものではありません。金属か非金属かの基本は、電子を出しやすく陽イオンになりやすければ金属。逆に電子を出しにくければ非金属。錫(tin)という「金属」は、ふつうの温度では熱のエネルギーで原子から電子がとれて陽イオンになるので、金属のふりをしています。つまり、ピカピカしていて電気をよく通して見るからに金属なのですが、ロシアの冬のようにマイナス何十度になると電子を出せなくなって非金属になってしまい灰色の粉になってしまいます。昔の人はこの現象をペストにたとえて、「tin-pest」と呼んでいました。ナポレオンがロシアに攻め込んだとき、冬の寒さの中で身の回� �の金具や銃の留め金などに使っていた錫がどれもこれもぼろぼろになり、武器が使えなくなってしまったということです。その結果、戦争どころではなくなったのが、負けた原因の一つといわれています。ICなどに使うケイ素(Si)の場合は、他の金属の原子が混ざっているときはその原子が出した電子で金属の様に見えますが、徹底的に純度を上げて99.999999999%くらいになると電子を出してくれる原子がなくなって非金属のようになるそうです。
21.X線解析
食塩、つまり塩化ナトリウムがイオン結合しているのはどうしてわかったのでしょう。教科書に書いてあるからというのはダメです。つまり、最初に見つけた人はどうしてそれがわかったのかということです。1910年代になるとブラッグ父子やラウエによってX線を使って結晶の構造解析が進められるようになりました。X線というのは非常に短い波長の波でこの波長がちょうど原子の大きさと同じくらいのために結晶に当てると原子の周りの電子にX線が反射されて特定の方向に限って強め合う「干渉」という現象が起こります。この特定の方向やその強さを詳しく調べると結晶の中の原子の位置やそれぞれの原子の持つ電子の数がわかるのです。その結果、塩化ナトリウムの結晶では、電子数11のNaと電子数18のClとが存在するのでは� ��く、電子数が10の粒子(Na+)と18の粒子(Cl−)が交互に並んで立方格子をつくっていることがわかったのです。
22.共有結合
イオン結合はわかりやすいのですが、共有結合では、共有電子対を作ったからといってどうして原子どおしが結合するのかわかりにくいものです。そこで、まず教科書に載っているL殻やM殻で電子が8個ぐるぐる回っているイメージは捨てて、原子核の周りに電子が2個ずつ対になって4対が存在している様子を思い浮かべてください。共有電子対は電子が2個集まったもので負の電気を持っており、共有電子対をはさむ2個の原子核は正の電気を帯びています。そこで、共有電子対が静電気的に両側の原子核を引きつけることによって2つの原子が結合すると考えてはどうでしょう。
化学むだばなし05/02
23.電気的中性の原理
イオン結合している物質では、陽イオンの正の電気と陰イオンの負の電気が釣り合っていて、手で触ったときにビリビリきたりしないというのが「電気的中性の原理」というものです。教科書には、一種類の陽イオンと一種類の陰イオンの組み合わせで説明してありますが、電気的中性の原理が成り立っていれば、それぞれのイオンの種類は一種類である必要はありません。たとえば、硫酸カリウムと硫酸アルミニウムを水に混ぜて温度を下げるか、水を蒸発させていくと、正八面体のきれいな結晶が出てきます。これがミョウバン(明礬、alum)と呼ばれるもので、組成式はKAl(SO4)2・12H2Oで名前を硫酸カリウムアルミニウムといい、K+:Al3+:SO42−=1:1:2の割合になっていま� �。このような化合物を「複塩」といい、この名前はミョウバンでは陽イオンが2種類(複数)あることに由来します。組成式の後ろについている12H2Oは、結晶水といわれるもので各イオンの隙間を埋めている水の分子を表していますが、ミョウバンの場合には、水分子の数が多いので水分子の間に各イオンが入った感じです。ここで質問、ミョウバンから見つかった元素は何でしょう。
どのように感染が広がっていますか?
24.接頭語
原子の大きさや重さを表す数値は大変小さいので、「0.0000000001m」とか「0.0000000000000000000000017kg」とふつうに書いてもわかりにくいだけです。そこで、このように極端に大きな数や小さな数をわかりやすく表すにはどうすればいいでしょうか。一つの方法は指数表示を使う方法です。1000は10x10x10だから、103と書くことは知っているでしょう。この方法を使うと、1200は1.2X103と書くことができるので、大きい数については大丈夫です。では、どのように小さい数を表すのでしょう。0.0001は1/10000だから1/104でもいいのですが、ふつうは、10−4と書きます。こうしておくと10ax10b=10a+bという指数法則が成り立ちます。一度、(1.2X103)x(10−4)でためして下さい� ��もう一つの方法は、接頭語を使う方法です。例えば、1000mは1kmです。というときのk(キロ)は、103倍を示しています。だから、1kmは、1x1000mという意味です。接頭語には、次のようなものがあります。これらを使うと原子の大きさは、0.1nm。質量は1.7x10−24gと書けます。
倍数 接頭語 記号 倍数 接頭語 記号
101 deca、デカ da 10−1 deci、デシ d
102 hecto、ヘクト h 10−2 centi、センチ c
103 kilo、キロ k 10−3 milli、ミリ m
106 mega、メガ M 10−6 micro、ミクロ μ
109 giga、ギガ G 10−9 nano、ナノ n
1012 tera、テラ T 10−12 pico、ピコ p
1015 peta、ペタ P 10−15 femto、フェムト f
1018 exa、エクサ E 10−18 atto、アト a
化学むだばなし05/06
25.戸祭の法則
化学の勉強も結合のところまできました。4月以来、いろいろな物質が出てきましたが、これらの物質に共通に成り立つ秘密の法則があるのに気づいたでしょうか。それは、「各原子の原子番号の和は偶数である。」ということです。ウソだと思うなら、水でも、塩化ナトリウムでも、二酸化炭素でも、アンモニアでも思いつくもので調べてみなさい。この教科書にも参考書にも出ていない秘密の法則は発見した人の名前をとって「戸祭の法則」というのは、……ウソです。でも昔この関係を見つけたとき、うれしくてあれもこれもと調べてみました。でも、ついに奇数のものを見つけてしまいました。それは二酸化窒素(NO2)です。現在では、化学反応の様子を詳しく調べていくと、この二酸化窒素のような物質(遊離基、ま� ��は free radicalという)がたくさんあることがわかっています。これらの物質はたいてい不安定で他の物質と反応しやすく、発ガン性を示すものもあるといわれています。古くなったインスタントのラーメンを食べると気分が悪くなることがありますが、調べてみるとラーメンの油が酸素と反応してたくさんの遊離基ができています。なぜ偶数なのか一度考えてみましょう。
26.原子の大きさ
原子の大きさは原子の直径を表しているのではありません。このあいだ配った英語のプリントにあったように現在考えられている原子のモデルは、「電子雲モデル」で原子核の周りを電子がボワッととりまいています。そして、電子は原子核に近いところほど濃く、離れるにしたがってだんだん薄くなっていくものですから、いったいどこまでが原子なのか決められないというのが本当のところです。そこで、教科書をよく見れば、イオン結合半径とか、共有結合半径、金属結合半径などと書いてあることに気づくでしょう。つまり、原子の大きさは、原子一個だけで測れるものではなく、原子が何らかの結合をしたときの原子間の距離から出しているものです。当然、同じ原子でも結合の仕方によって大きさが変化します。面白いと� ��いませんか。裏面に簡単に表を載せておきますが、この表からどれだけのことが読みとれるでしょうか。例えば、原子の大きさは、原子番号が増えれば、単純に大きくなるのではないことなど電子配置の本質に関わることがいくつも現れています。
27.理科の勉強
理科の勉強は、学校で習っているぶんでは、先生の言うことをよく聞いて、覚えて、テストで良い点を取れば良い評価がもらえるわけですが、これは理科のすべてでは決してありません。もし、あなたが学校の理科の成績が良いからという理由で理科を使う職業につくというなら、もう一度考え直すことを進めます。理科は、本来教師から学ぶ学問ではなく、自然から学ぶ学問であると考えるからです。実験をしたデータや観察の結果からどれだけのことを読みとり、どれだけのことを考えられるかが問われるのではないでしょうか。
資料 典型元素の原子とイオンの大きさ
上段:共有結合半径 中段:金属結合半径 下段:イオン結合半径
希ガスはファンデルワールス半径
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化学むだばなし05/07
28.分子の構造
化学式について、組成式から始まって、分子式、構造式とより詳しい形のものが出てきましたが、これは化学の発展の歴史でもあります。現在では、簡単な分子なら中の原子間の距離や角度も正確にわかるようになってきました。(大きな分子でも結晶になればわかりやすい)ただ、顕微鏡で大きくして直接に見るわけではないので、X線や赤外線を当てたり、磁場をかけながら電子レンジで使うようなマイクロ波を吸収させたり、電子をぶつけたり、反応させたり、およそ考えられられることをして、間接的な状況証拠を積み上げていくのです。このあたりの作業は、つまらない推理小説よりずっとおもしろいものです。分子の構造は、実験的に調べるだけでなく、理論からも計算し予測されています。簡単な例として、原子が単結� ��で他の原子と共有結合しているときを考えます。このとき、原子の周りの8個の電子は、4つの電子対となって原子の周りに存在します。この4つの電子対は、互いに電子の持つ負の電気で反発し合うので、図のように空間の中で最も離れた位置に存在します。その結果、電子対の間は、109.5゚の角度になり、メタンの分子のように正四面体の構造をもった分子になります。このことがわかれば、アンモニアの分子が三角錐になるのは、メタンから1つ水素を取った形を見ているのであり、水分子が折れ線形になるのは、2つ水素原子を取った形を見ているわけで、中心となる窒素や酸素の周りには、メタンの炭素原子と同じように4つの電子対が存在しているのです。では、この考え方を使ってC2H6O(エタノール)の� �子構造を考えてみましょう。
29.二次元伝導体
乾電池を分解したことがありますか?乾電池を分解すると真ん中に炭素棒が入っています。あの炭素棒は黒鉛の粉を固めたものです。では、非金属の黒鉛が電気を通すのはなぜでしょう。炭素原子の持つ4個の価電子のうち、3個は他の炭素原子と共有結合するための共有電子対として利用されていますが、残りの1個はそれぞれの炭素原子から離れて自由電子となり炭素原子のサンドイッチの中に挟まれながら動いているので、金属と同じように電気を通すのです。というようなことが教科書には書いてありますが、何か質問はありませんか。えっ、ほんとに何もない?では、こちらから質問です。原子は結合するときに希ガスの電子配置になると言っていましたが、黒鉛の炭素原子は、価電子が6個の状態になっているのはなぜだ� ��次、自由電子となっている電子は、サンドイッチのパンにあたる炭素原子の層を貫いて移動することが出来るのか、もしできないのなら、炭素の層と平行には導体で、垂直には不導体ということになるのか?教科書のちょっとしたことでも立ち止まって考えるおもしろいですよ。
化学むだばなし05/08
30.耐火レンガ
イオン結合は強い結合なので、イオン結合による物質の融点や沸点は高いという話をしました。では、どれくらいのものか表で示してみましょう。この表からわかることは、単に高いということだけではなくて、酸化物イオンがあれば高く、水酸化物イオンがあれば低いというように、陰イオンによってある程度の差があるということです。例えば、酸化マグネシウムは、融点が非常に高いのでこの性質をいかして耐火レンガの材料として利用されます。耐火レンガというのは、焼却炉などに使われるもので、1000度を越えるような高温に長期間耐える必要があります。そのために酸化マグネシウムなどを含んだ粘土を焼いて固めたものです。それでは、耐火レンガを焼くための炉にはどんな耐火レンガを使うのでしょう。言っているこ とがわかりますか?レンガを焼くというのは、粘土の粒子の表面が一度溶けてとなりの粒子とくっつくことが必要です。つまり、1500度まで耐えるレンガを作ろうとすれば、それ以上の温度で焼く必要があり、焼くための炉のレンガは1500度以上の温度に耐えなければならないのです。もう一つ、世の中で最も溶ける温度の高い物質は、何に入れて溶かしたのか。また、その温度までどうして加熱したのか。
物 質 | 融 点 | 沸 点 |
NaCl | 801 | 1413 |
K2SO4 | 1069 | 1689 |
AgNO3 | 212 | 分解 |
MgO | 2826 | 3600 |
CaO | 2572 | 2850 |
Al2O3 | 2015 | 3500 |
NaOH | 318 | 1390 |
KOH | 360 | 1320 |
31.色温度計
融点や沸点の測定について、2572度とか、2850度というのは、どんな温度計ではかったのでしょう。ふつうの温度計はガラスでできているので、ガラスが溶ける500度以上の測定は当然無理です。1000度くらいまでなら、熱電対ではかるという方法があります。熱電対というのは、二種類の金属を接触させるとわずかに電圧が出て、その電圧が温度によって変化するという原理で測定するものですが、金属が溶けてしまってとても2000度は測れません。それ以上の温度は、色温度計で測ります。物体を高温に熱すると光りますが、その色は温度が上がるにつれて、暗赤色から赤色、橙色、黄色、白色と光の波長は温度に反比例して変化するのでその色から温度を測定することができます。この方法のよいところは、測定する物質の中に温度計を 入れなくても、離れたところから温度が測れるということです。この色温度計は今から百年ほど前に溶鉱炉の中の温度を測るために実用化されました。それまでは勘と経験に頼って鉄を作っていたのですが、鉄の温度を測りながら作ることで良質で均質な鉄を大量に作ることができるようになったのです。天文学の分野でも利用され、太陽の表面温度が6000度であることがわかったのも、この方法を使ったからです。そして、現代科学において、もっとも大事なことは、この色と温度の関係を考察したプランク(Max Karl Ernst Ludwig Plank)によってエネルギーはとびとびの値であるという量子論が発見されたことです。
化学むだばなし05/09
32.人工ダイヤ
ダイヤモンドが炭素の結晶の一種であることは、どうしてわかったのでしょう。答えは燃やしてみたのです(1797年)。ダイヤモンドが炭素からできているとわかると、多くの人が黒鉛から人工的にダイヤモンドを作ろうとしましたがなかなかできませんでした。その理由は、ダイヤモンドのでき方にあります。ダイヤモンドはマグマが冷えて固まるときに、他の鉱物と一緒に高温、高圧の中で何万年もかかって育った結晶なのです。だから、ダイヤモンドを合成するには、2000度近い温度と、約5万気圧の圧力が必要になります。でも、鉄は1400度くらいで溶けてしまうし、超硬合金といわれるものでも1万気圧くらいまでしか耐えられないのです。しかし、アメリカのグループが1955年に成功しました。それは、圧力をかける部分を特別な 形にし、黒鉛にガンガンに電流を流して温度を上げて作ったのです。しかし、黄色い色がついていて宝石には使えませんでした。現在では、硬ければいいという工業用では90%以上が人工ダイヤです。その後、1カラットくらいまでなら、透明なダイヤモンドを人工的に作ることもできるようになっています。また、ホウ素を少し加えることで、天然では珍しいブルーダイヤを作ることにも成功しています。
33.フラーレン
面白い形の分子として、サッカーボールの形をしたフラーレン(C60)があります。この分子は、1970年に日本人の大沢映二が存在を予言したもので、1985年に星間物質として発見され、その後、人工的に合成することもできるようになった物質です。この分子は、その内部に他の原子を取り込むこともできます。しかし、現在では、極低温で電気の抵抗がなくなる「超伝導」現象が起きる物質として注目されています。
34.窒化ホウ素
共有結合の結晶として、ダイヤモンドによく似たものを紹介しましょう。まず、窒化ホウ素(BN、ボラゾン)は、ダイヤモンドの炭素を周期表の隣の窒素とホウ素に置き換えて人工的に作ったもので、最大の特徴はダイヤモンドより硬いことです。この物質とダイヤモンドをこすれば、ダイヤモンドに傷が付きます。二酸化ケイ素(SiO2)は、天然では水晶として六角柱の結晶が得られます。構造は、ダイヤモンドのC−C結合をSi−O−Si結合(シロキサン結合)に置き換えたものです。ケイ素は炭素よりも原子が大きいので、「炭素−炭素」のような「ケイ素−ケイ素」の結合は不安定で、間に酸素が入った構造になっています。炭化ケイ素(CSi、カーボランダム)は、ダイヤモンドの炭素原子を1個おきに同じ14族元素のケイ素に� ��き換えたもので、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持っています。この硬さを利用して、二酸化ケイ素を主成分とする岩石やガラスを削るのに利用します。高校生の頃、反射式の望遠鏡の反射鏡を作ろうと思って、カーボランダムの黒い粉を水に混ぜて、ガリゴリとガラスを削ったことがあります。
化学むだばなし05/13
35.合成金属
金属の特徴は、電子が自由電子となって動き回っていることにあります。しかし、考えてみれば原子の中や分子の中でも電子は動き回っています。それなら、分子と分子を押しつけて、電子が分子と分子の間も自由に動けるようにすれば、電子は金属の自由電子と同じようになって分子からできた物質も金属のようになるのではないでしょうか。実際、ヨウ素は20万気圧で金属のように電気を通すようになります。そして、現在は300万気圧をかけて水素を金属にする研究が進められています。また、分子の中で電子が動き回れるのなら、長い長い分子を作ってその中で電子を動けるようにすれば金属ができるという発想で「合成金属」の研究も進められています。とにかく、これは金属でこれは非金属、と決めてかからず、圧力� ��分子の形などの条件を変えて、自由電子ができれば金属になるというくらいに余裕を持っておくことが大切なのではないでしょうか。
36.合金
いくつかの金属を混ぜて合金(alloy)にすると、機械的な強度や融点、腐食性が変わるので、いろいろな合金が作られています。そのいくつかを紹介しましょう。銅の合金は貨幣に使われています。白い五百円と百円、五十円は、白銅といって、銅にニッケルを混ぜたものでできています。十円玉は、銅に錫を混ぜた青銅でできています。青銅は銅像などにも使われるものでさびる(錆びる)と青くなるので青銅というのでしょうか。五円玉は、銅に亜鉛を混ぜた黄銅で、軟らかく加工しやすいので管楽器などに使われます。その他にも、身近なところではステンレス鋼があります。ステンレス鋼と言う言葉は、錆や汚れ(stain)がない(less)鋼(steel)という意味です。ステンレス鋼でできているスプーンなどを見ると18または18-8というような表� ��がありますが、前の18は、ニッケルが18%含まれていることを示し、後ろの8はクロムが8%含まれていることを示していて、残りが鉄です。つまり、錆びにくいニッケルやクロムを鉄に混ぜたのがステンレス鋼といえます。だから、ニッケルやクロムが多いほど錆び難く、光沢も良くなるので上等の食器では18-14といったものもあります。
37.理科年表
理科年表という小さい本を見たことがありますか。私の手元には高校生のときに使っていた昭和49年の理科年表が今もあります。年表というと歴史年表のように「1938年にナイロンが作られた。」というようなことばかりが載っているように思うかもしれませんが、化学を勉強する人にとっては物質の密度や融点・沸点、溶解度など基本的な数値がいっぱい載った便利な本です。化学以外に物理や生物、地学のこともたくさん載っていて、手元に一冊あるとずいぶん暇つぶしができます。ただ、この本を作っているのが東京天文台なので、はじめのところには何月何日の太陽の位置とか、日食の起こる日といった暦や天文のことが載っていて、この部分が毎年変わるために、きっと理科「年表」というのでしょう。
化学むだばなし05/14
38.曲がる結晶
結晶というと、食塩やダイヤモンドのように決まった形があって硬く、変形なんかしないというイメージがあるのに、金属のような曲がったり、伸びたりしていろんな形になるものが、結晶であるということに何か違和感を感じませんか。では、原子のレベルで考えてみましょう。食塩では陽イオンと陰イオンとがイオン結合で、ダイヤモンドでは炭素原子どおしが共有結合で直接に結合しています。しかし、金属では金属原子が陽イオンになって自由電子と静電気的引力を及ぼし合っているだけなので、直接に結合していない陽イオンどおしは、比較的動きやすい状況にあります。つまり、金属の結晶に力を掛けると変形するのは、面心立方格子の図でいえば原子が斜めに並んでいる原子の面があって、その面と面が滑ってずれるた� ��です。一般に、金属を混ぜて合金にすると硬くなって曲がりにくくなるのは、大きさの異なる原子が入ったために、面と面の滑りが悪くなったためです。特に鉄に炭素を混ぜたときには、小さな炭素が鉄原子の面の間に挟まるので、面と面がひっかかって動きにくくなります。このことが純鉄(軟鉄)は軟らかく、炭素を含んだ鋼鉄が硬い原因となっています。
39.電子レンジ
「Hz(ヘルツ)」という単位を知っていますか。この単位は、振動の回数(振動数)を単位で、「α-stationの電波は、89.1MHzです。」というときの89.1MHzは、1秒間に89.1x106回振動する電波であるということです。では、2450MHzの電波を使うのは……。答えは、電子レンジです。電子レンジで食品を加熱できるのは知っていますね。でも、お皿に何かのせて加熱すると、お皿は冷たいのに乗せたものだけが暖かくなっているのを不思議に思ったことはありませんか。分子の中の原子どおしは、対等ではないのです。水の分子では、水素原子は陽イオンになることからわかるように電子を出しやすく、陰イオンになる酸素原子は電子を取る性質があります。このような二人が作った共有電子対は、当然、酸素の方に偏って存在することに� �り、水分子は、電荷の偏りを持った極性分子ということになります。そして、この電荷の偏りの大きさは、プラスチックや瀬戸物、金属に比べて数十倍も大きいので、電子レンジの中では、電波の振動に合わせて水の分子だけが激しく振動し、温度の上がった状態になるのです。
40.結晶作り
濃い食塩水を作り一ヶ月くらいかけてゆっくりと水を蒸発させると、うまくいけば1cm角くらいのサイコロ状の結晶ができます。こんな塩の結晶を見たり、できることなら自分で育てたことのある人は、教科書にあるような塩化ナトリウムのサイコロ状の結晶構造を見ると思わず納得してしまうのです。結晶を育ててみようと思うなら、ミョウバンで試してみることを勧めます。ミョウバンには、無色のカリミョウバン(KAl(SO4)2)や、赤紫色のクロムミョウバン(KCr(SO4)2)があり成功すれば、きれいな正八面体の結晶になります。
栄養補助食品のEPLは何ですか?
化学むだばなし05/20
41.吸収スペクトル
風呂場で歌うとある音程の音だけがよくひびき大きな音になって聞こえるのを知っていますか。ウソだと思ったら、だまされたと思ってドレミファと音階だけでも試してみましょう。この現象は、「共鳴」という現象で風呂場の壁の間隔を行ったり来たりする音の振動数と声の振動数とが同じになったときにおこる現象です。話は変わって、分子のなかの原子をつなぐ共有結合は、接着剤で固定されているというよりは、バネでつながっているという感じになっています。バネをはじくと振動しますが、この振動数は結合の強さや結合している原子の種類(実際には重さ)によって変化します。このこととはじめの共鳴の現象をうまく利用するとどんなことができるでしょうか。分子に適当な振動数の光(実際には、赤外線が使われる� ��)を当てると、その振動数と同じ振動数の結合があればそこで共鳴を起こして光が吸収され、結合によって吸収される光の振動数が異なるということです。図は、1−ブテンという物質の赤外線の吸収スペクトルといわれるもので、赤外線の振動数と吸収の関係を示しています。どの場所がどの結合に対応するかがわかっているので、このようにスペクトルにとって調べれば、分子の中にどんな結合があるかが一度にわかります。こうして分子の中の原子のつながり方(分子の構造)を調べる学問を分光学といいます。現在では、分子の構造決定に分光学はなくてはならないものとなっています。
42.電気陰性度
電気陰性度は各原子の共有電子対を引っ張る程度を示します。これは、周期表上の原子の位置とどんな関係があるのでしょう。このプリントの裏の資料を見て考えてみて下さい。また、陽性元素と陰性元素の関係は電気陰性度で見るとどうなっているのでしょう。共有結合している原子間の電気陰性度の差が大きいと共有電子対が電気陰性度の大きい方の原子に取られて、イオン結合になってしまいます。この電気陰性度とイオン結合性との関係も資料として載せておくので利用して下さい。
1. ポーリングの電気陰性度
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
H | He | ||||||||||||||||
2.1 | |||||||||||||||||
Li | Be | B | C | N | O | F | Ne | ||||||||||
1.0 | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 | 3.5 | 4.0 | |||||||||||
Na | Mg | Al | Si | P | S | Cl | Ar | ||||||||||
0.9 | 1.2 | 1.5 | 1.8 | 2.1 | 2.5 | 3.0 | |||||||||||
K | Ca | Sc | Ti | V | Cr | Mn | Fe | Co | Ni | Cu | Zn | Ga | Ge | As | Se | Br | Kr |
0.8 | 1.0 | 1.3 | 1.5 | 1.6 | 1.6 | 1.5 | 1.8 | 1.8 | 1.8 | 1.9 | 1.6 | 1.6 | 1.8 | 2.0 | 2.4 | 2.8 | |
Rb | Sr | Y | Zr | Nb | Mo | Tc | Ru | Rh | Pb | Ag | Cd | In | Sn | Sb | Te | I | Xe |
0.8 | 1.0 | 1.2 | 1.4 | 1.6 | 1.8 | 1.9 | 2.2 | 2.2 | 2.2 | 1.9 | 1.7 | 1.7 | 1.8 | 1.9 | 2.1 | 2.5 | |
Cs | Ba | La | Hf | Ta | W | Re | Os | Ir | Pt | Au | Hg | Tl | Pb | Bi | Po | At | Rn |
0.7 | 0.9 | 1.1 | 1.3 | 1.5 | 1.7 | 1.9 | 2.2 | 2.2 | 2.2 | 2.4 | 1.9 | 1.8 | 1.8 | 1.9 | 2.2 | 2.2 |
2. 電気陰性度の差とイオン結合性
電気陰性度の差 | 0.2 | 0.4 | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.2 | 1.4 | 1.6 | 1.8 | 2.0 | 2.2 | 2.4 |
イオン結合性(%) | 1 | 4 | 8 | 15 | 22 | 30 | 39 | 47 | 55 | 63 | 70 | 76 |
イオン結合性が50%になるのは、電気陰性度の差が1.7のときになります。だから、ある結合がイオン結合か共有結合かを区別するときには、この1.7を目安にして区別するのが便利です。
化学むだばなし05/21
43.水素化合物
水素結合のところでは、いろいろな水素化合物が出てくるので少し紹介します。水素化合物のファミリーには、水やアンモニア、メタンといったよく知られているもののほかにひとくせ持ったものがそろっています。例えば、12.で出てきた水素化ナトリウム(NaH)は、水素化物イオン(H−)を含んでいます。次、水素化ケイ素(SiH4)は、名前をシランといいます。正確にはモノシラン。Si2H6のジシランというものもあります。シランの仲間は、空気中の酸素と反応して自然に燃えるので注意が必要です。ホウ素の水素化物(BH3)はボランといいます。ボランの分子2個からできたジボラン(B2H6)は典型的な電子欠損化合物で、1つの電子対を3つの原子で共有している三中心結合� ��有名です。その他にホスフィン(PH3)のように有毒なものもや、アルシン(AsH3)、ゲルマン(GeH4)など特別の名前を持ったものがたくさんあります。
44.XePtF6
ラムゼーによって1894年に、アルゴンが窒素から分離されて以来、ヘリウム、ネオン、クリプトンと見つかってきた希ガスは、どれも化合物を作りませんでした。そして、人々はそれらを「不活性ガス」と呼んで反応しないものと思っていました。しかし、1962年にバートレット(Bartlett)が、強酸化剤(相手の分子から電子を取るはたらきの強い薬品)である六フッ化白金(PtF6)について研究しているときに、たまたま、この六フッ化白金が酸素と反応してO2+と[PtF6]−を生じることを発見しました。ふつうは陰イオンになる酸素が陽イオンになっているので、それに必要なエネルギーを調べると、その値は希ガスのキセノンから電子を奪うのに必要なものよりも大きいものでした。そこで、キセ� ��ンと六フッ化白金を反応させると簡単に室温で安定なだいだい色の固体を得ました。調べてみると、XePtF6(Xe+とPtF6−)となっていました。その後、この発見に刺激されたクラーセン(Claassen)らは、XeF2やKrF2も得ています。しかし、まだヘリウムやネオンの化合物は得られていません。なぜでしょう。
45.分子とは
分子というのは、ふつうは「原子どおしが化学結合した集団のこと。」と考えれば十分だと思います。しかし、世の中には変わった物質も存在します。例えば、フラーレンのカゴの中にカリウムの原子が入ったものはどうでしょう。この状態でフラーレンの炭素原子とカリウムの原子は結合していませんが、これらを別々に扱うべきでしょうか。また、図の[2]カテナンという物質は、30個の原子が共有結合で輪を作り、2つの輪が鎖のようにつながったものです。この場合も、2つの輪の間には何の化学結合もありませんが、この2つの輪は一緒に動かざるを得ません。そこで、最近では「分子とは、いっしょに行動する分子の集団」とすることもあります。
化学むだばなし05/22
46.化学的な性質と電子
化学結合の主なものには、イオン結合、共有結合、金属結合がありますが、共通していることは何でしょう。それは「電子」です。化学という学問は、「水素と酸素を反応させると水になる。」というように、いろいろな物質の化学反応を扱います。化学反応というのは、ある物質から別の物質への化学結合の組み替えです。言い換えれば、原子と原子のフォークダンスのペアの交代にあたります。この化学結合の組み替えで電子がどんな行動をするかによって、爆発するような激しい反応もあれば、ゆっくりと進む反応、発熱して温度が上がる反応や、温度が下がって凍り付くような反応、蛍のように光が出る反応もあります。ふつうの化学反応以外では、食塩が水に溶けるのも、水が凍ると体積が増えるのも、金属が光沢をもって� ��るのも電子が関わっています。つまり、全ての物質の化学的な性質には電子が関係しています。だから、物質の中の電子のはたらきを考えるのが化学と言えます。それから、化学で原子を分類するのに原子番号(陽子数)を使うのは、原子核の中の陽子の数で化学的な性質を左右する原子の外側の電子の数や配置が決まるからです。
47.化学結合の間
化学結合は、イオン結合、共有結合、金属結合と大きく分類されています。化学結合を理解する上で、この分類は基本的なものですが、全ての物質がこの3つの結合のどれかに分類されるわけではありません。塩化水素のような極性分子は、共有結合とイオン結合の両方の性質を持っています。また、ICに使われるケイ素(Silicon)などの半導体は、共有結合と金属結合の両方の性質を持っていて、ダイヤモンドと同じ結晶構造ですが、温度が高くなると共有結合に使われている電子の一部が飛び出して自由電子となり、金属のように電気が流れるようになります。また、黒鉛の中の炭素原子では、4つの価電子のうち3つは共有結合をしていますが、残りの1つは金属結合をしています。イオン結合と金属結合の両方の性質を持ったも� ��にはどんなものがあるでしょう。
48.試験に向けて
試験が近づいてきました。化学の勉強はどんなことをすればよいでしょう。今回の範囲には計算らしい計算もないので、用語(technical term)が中心になります。用語の意味や定義を覚えるのは当然ですが、単に覚えるのは大変です。やはり、なぜそういう定義がされるのか、なぜこういう考え方が有効なのか、ということを意識した方が納得できるので覚えやすいし、忘れにくいものです。特に、一つ一つの用語だけでなく、用語どおしの関係、つまり、共有電子対と非共有電子対のようにセットになるものや、結晶とイオン結晶のように上位・下位の概念を整理しておくことが大切です。電気陰性度などいま勉強していることは、これからも何度も使います。試験がすんだら忘れるのではなく、試験に向けて頭の中をしっかり整理して試験が済んでも忘れないようにして欲しいものです。
化学むだばなし05/23
49.原子量の基準
原子量の基準がいろいろと変わったことは教科書に載っていますが、なぜ変わっていったのかということを、少し紹介します。まず、ドルトンが水素を1としたのは、水素の原子量が最も小さかったからで、表のようにドルトンはすべての原子の原子量は、水素の整数倍であると考えていたようです。しかし、酸化カルシウム(Lime)のような化合物を元素としたり、水をH2OでなくHOと思っていたりと、現在の原子量とはだいぶ異なったものですが、当時の化学者の考えていたことがよくわかります。その後、ベルセリウスは、化学が発展するためにはもっとたくさんの原子量がわからなければと考え、2000以上の化合物について測定をしました。そして、多くの元素について、ほぼ現在の数値と同じものを得ています。酸素を基準 に置いたのは、他の元素の原子量を測定するときに、酸素と化合させて酸化物を作って測定したためです。また、この測定から、原子量は必ずしも水素の原子量の整数倍ではなく小数になることもはっきりしてきました。ただ、酸素を100とすると原子量が1000を越えるものもあり不便なため、一般には、理論を重視する人は水素を1とし、実験を重視する人は酸素を16とするような状況でした。(基準の取り方によって約1%値が変わる。)しかし、19世紀も終わりになると原子量を世界的に統一することが必要になり、10年あまりの論争の末、酸素を16とすることでまとまりました。しかし、それもつかの間、1929年に酸素が、実は一種類ではなく3種類の同位体の混合物であることが発見されました。このことで、個々の同位体の原子量は水 素のほぼ整数倍であるが、その割合によって元素としては原子量が小数になることがわかりました。理屈から言えば、混合物を基準にすることはおかしい訳です。その結果、物理学者は16O=16として原子量を決めるべきであると主張し、化学者は実際に天然に存在する酸素は同位体の混合物なのだから、これを基準とすべきであると主張して、物理の教科書の原子量と化学の教科書の原子量とが異なる時期が続きました。そして、1957年、ニールが12C=12を基準とすることを提唱しました。この方法は、物理学者にとっては、原子量の値は少し変わるが混合物を基準としないということで、化学者にとっては、基準となる物質は変わるが原子量の値がほとんど変わらないということで、双方に受け入れられるものでし� ��。そこで、1961年に原子量委員会によって、正式に提案され同年より実施されることとなりました。現在でも、測定方法の進歩などがあって、2年に一度、原子量は改訂されています。教科書に載っている数値は教育用に4桁の精度にまとめたものですが、実際に使う場合は、整数に四捨五入することが多いです。
化学むだばなし05/24
50.原子量の決定
原子量はどのようにして決めるのでしょうか。原子量は原子と原子の相対的な質量の比ですから、原子と原子を反応させて決定できます。例えば、ある原子Mの原子量Xを求めるために、この原子Mの40gを酸素と化合させると組成式がMOという酸化物になり、その重さが50gになったとします。このとき、原子Mと酸素の原子は1:1の割合で反応ていて、増えた10gは酸素の重さになります。だから、酸素の原子の原子量を16とすれば、原子Mの原子量、つまり、酸素の原子の重さを16としたときの原子Mの相対的な質量Xは、16:X=10g:40gとなって、X=64より原子Mの原子量は64であることがわかります。ここで説明したのは、あくまでも原子量を決定するための原理です。実際には、未反応の部分が残ったり反応させたと� �に何種類もの物質ができたりするので、精密な測定をするのが難しいことが多くあります。では、酸化物の重さは同じ50gでも、組成式がM2Oだとすると原子Mの原子量はいくらになるでしょう。
51.質量分析器
現在では、原子量を決定するときに、化学的な反応よりも質量分析器を使うことがふつうになっています。質量分析器というのは、裏面の図のように真空の容器の中で、まず測定する原子に電荷を与えて強制的にイオンにします。そして、電圧をかけたり磁石を作用させたりして、イオンを重さごとに分けて記録するものです。この装置は、何種類もの原子が混ざっていてもどんな重さ(つまり、原子量)のものがどんな割合で入っているかまで一度にわかり、その誤差も0.0005%と化学的な方法よりもはるかにすぐれたものです。そして、原子の場合には同位体も分離はもちろん原子核の中の少しの重さの変化も知ることができます。また、原子だけでなく分子の重さも測定できるので分子量を決定するためにも利用されています。
52.原子番号を知る
レントゲン撮影のときに使うX線はどういう方法で作るのでしょう。これは、X線管という大きな真空管があって、それに1万ボルトくらいの電圧をかけると陰極から電子が飛び出し、陽極にぶつかったときに陽極の原子のK殻の電子をはねとばしてしまいます。その空いたところに他の電子が入るときに、余分なエネルギーをX線として出すのです。じつは、この原理を利用して原子番号を知ることができるのです。このX線を使って原子番号を正しく決める方法は1913年に26歳の若い物理学者、モーズレーによって発見されました。彼は、陽極に使う元素を変えることによって出てくるX線の波長が裏面の図のように規則的に変化することを発見したのです。そして、それまで、原子量の順につけられていた原子番号は、原子核の中� ��陽子の数と同じものであることも発見したのです。しかし、彼はこの発見後、第一次世界大戦に行き、帰らぬ人となってしまいました。彼は、Arの値を測定していませんがなぜでしょう。
化学むだばなし05/30
53.原子量の差
同位体の化学的性質は同じなので、同位体はどこでも同じ割合で分布していることになっていますが、正確に調べるとほんの少しですがその違いがわかります。例えば、酸素の原子量を測ろうとして、空気の中の酸素、海の水分子の中の酸素、岩石の中の酸素、動物や植物の体の中の酸素といろいろな試料から酸素を集めて原子量を正確に測定すると、でき方によってどの同位体が集まりやすいかに差があるためにそれぞれの値には0.0003程度の差があります。しかし、鉛の場合はウランの鉱石から取り出された鉛の原子量は206.15であり、トリウムの鉱石から取り出された鉛の原子量は207.94であることを、1914年にアメリカの化学者リチャーズが発見しました。この差は酸素の場合の差に比べて非常に大きいので別の理由を考える必要があ ります。さて、彼はどんな理由を考えたでしょう。
54.アボガドロ数
モルの考え方のもとになるのがアボガドロ数ですが、このアボガドロ数はどのようにして測定するのでしょう。いろいろな方法がありますが、2つ紹介しましょう。一つは、水の上にステアリン酸など蒸発しにくい油の分子を蒸発しやすいエーテルなどに混ぜて水の上に落とすと、エーテルが蒸発した後にステアリン酸の分子が重ならずに薄く広がった膜ができます。この現象を利用して、油の分子の大きさ、分子量、使った油の重さと、膜の面積からアボガドロ数を求めるものです。もう一つは、ラジウムのように放射能を持った原子からヘリウムの原子が飛び出してくることをを利用するものです。飛び出してきたヘリウムの原子が蛍光塗料に当たるとそこが光るので何個のヘリウム原子が出てきたかを数えることができます。そ� ��で、1秒間に1gのラジウムから何個のヘリウムの原子が出てくるかということと、1年間に1gのラジウムからできるヘリウムの体積を測ればアボガドロ数を求めることができます。さあ、アボガドロ数を求める式を作ってみましょう。
55.原子量と質量
分子量やモルのところになると計算がたくさん出てくるのは、対象を量的に扱っているからで、計算を目的にしている訳ではありません。最も大切なのはそれらがが互いにどのような関係になっているのかということです。例えば、なぜ1モルの重さは、原子量に等しくなるのか考えてみましょう。12Cの原子1個の重さをmcとしアボガドロ数をNAとすると、「12gの12Cに含まれる炭素原子の数をアボガドロ数とする。」ということは、式で書くと mcxNA=12 ……@ となります。また、原子量の定義は「12Cの原子1個の重さを12としたときの質量の比」ですから、ある原子1個の重さをmxとしその原子量をMxとすると、mx/m c=Mx/12……A となります。そして、「アボガドロ数の原子の集まりを1モルとする。」ので、ある原子1モルの重さを式で表すと、mxxNAとなります。さあ、@とAを使って、この値がMxとなることを確かめてください。
化学むだばなし06/04
56.COの電子式
「一酸化炭素の電子式はどうなっているのか」という質問がありました。一酸化炭素は二酸化炭素が高温で熱分解してできる物質です。構造は、炭素の周りの電子の数は8個になっていないので、1つに定まったものではなく、二酸化炭素から酸素をとったC=Oという構造のほかに、C+−O−、C−≡O+のように炭素と酸素の間で電子が移動した構造の間をいったりきたりしている(共鳴という)と考えられています。授業では、原子の周りの電子は8個になるといっていますが、この一酸化炭素のように8個にならないものは他にもあります。例えば、五塩化リンでは、リンの周りにはリンの価電子の5個と5個の塩素原子から1個ずつ加わって合計10個の電子があります。この場合、価電子は M殻に入っていて、M殻には18個まで電子が入れるので絶対にダメというわけではありません。逆に言うと、8個というのは原子番号が20くらいまでの原子に成り立つことであって、原子番号の大きい原子では、成り立たないこともよくあるということです。
ケミカルピールにきび
57.ヘリウムの質量
量には測定しやすいものと、測定しにくいものがあります。例えば、気体の体積はどのようにして測定するのでしょう。液体であれば、容器に目盛りを付けておいてどこまで入ったかで読むことができますが、気体の場合はどこまで入ったかもわからないし、勝手に逃げていきます。そこで、ふつうは水上置換の方法を利用して、集気ビンのかわりにメスシリンダーを細長くしたようなガスビュレットというガラスの管を使います。測定する気体を水中にアワとして送り込み、ガスビュレットにたまった気体の体積をその目盛りから測定します。もっと測定しにくいのは気体の質量です。モルの計算では簡単に答を出せますが、空気の重さを測定しようとして袋に空気を入れて測りに載せても、測れるのは袋の重さだけで空気の重さは� ��れません。さらに、ヘリウム風船のように軽い気体のときには、浮いてしまって測りに載せることもできません。さあ、どうすれば測定できるでしょうか。
58.単位と計算
理科に出てくる数字には、ほとんどの場合、「単位」がついています。長さや重さ、時間といった理科で測定する量(物理量)は、リンゴやミカンのように1個が明確なものではなく連続的な量なので、基本となる単位を決めるてその何倍かという方法であらわします。たとえば、「ある長さが3mである。」というのは、「mという長さの単位の3倍の長さである。」ということで、3mというのは「3xm」の意味になります。(公式:[物理量]=[数値]x[単位])モルの計算でも、2molx22.4l/mol=44.8lというばあいでも数値と単位に分けて計算すれば、答えの単位は、2つのmolが分子と分母の関係で約分されて消え、単位がl(リットル)になるのがわかります。とくに、計算でかけ算にするのかわり算にするのかがわからなくなる� ��は単位も式に書き込んで計算して下さい。
化学むだばなし06/05
59.フロギストン
焼却炉でごみを燃やすのは、木や紙を燃やすと残った灰の重さは始めの10分の1以下になるからです。だから、「燃やせば軽くなる。」というのが常識になっています。燃焼ということについては、18世紀の始めにフロギストン説が登場し、「ものが燃えると軽くなるのは、物質からフロギストンが出ていくためである。」と説明されていました。これを疑った天才がラボアジエです。彼は、錫Snを空気中で加熱して燃やすと逆に重くなることや、同じように錫を燃やしても栓をしたガラスの容器の中で燃やしたときには重さは変わらず、後で栓を取ると空気中で燃やしたときと同じだけ重さが増えることなどを実験しています。そして、プルーストリーが酸素を発見したことから、燃焼というのは、物質と酸素との結合であることを明� ��かにしました。また、他のいろいろな物質についても正確な測定をし、燃焼(ひいては全ての化学反応について)によって逃げていった気体の重さまで入れれば、反応の前後で重さは変化しないという「質量保存の法則」に到達しました。
60.直視天秤
ラボアジエは質量保存の法則にいたるまでに、反応した物質の質量などを測定する定量的な実験を繰り返しています。そして、精密な測定をするために特別に精度の高い天秤を製作しています。現在でも、天秤は質量を測るための最も精密な測定器具です。台所で使う秤や体重計などのバネばかりでは、1%くらいの誤差はつきものですが、簡単な天秤でも誤差は0.1%くらいです。直視天秤という少し上等の天秤を使うと100gの質量を0.0001gの精度で測ることができ、誤差にすると0.0001%ということになります。この精度になると風が吹いても重さが変わるので風が当たらないようにガラスの窓を閉め、振動で目盛りが変わらないように特別に重く作った天秤台に載せるなど工夫が必要になります。理科で測定する量のなかで質量のよう� �簡単に高い精度の測定のできるものにはどんなものがあるでしょう。
61.反応式の係数
化学反応式の係数合わせというのは、化学反応式を習ったときにかならず練習するものです。見ただけで答えがわかればいいのですが、難しいものになるとずいぶん手こずるものです。参考書などを見ると未定係数法というのが載っています。この方法で必ず解けることは間違いないのですが、個人的には好きではありません。係数合わせが難しいということは、未知数が多いからで、未知数が5つも6つもあるような方程式を試験のときのように解こうとしても頭に血が上るだけだからです。それよりも、反応式の中で一番よく出てくる原子にまわりの原子との関係を考えながら小さい数から順に代入して確かめる方が速いような気がします。化学の知識が増えてくれば、一つの反応を何段かの簡単な反応に分け、それらをまとめて� ��つの反応式にするのがもっとも確実な方法だと思います。
化学むだばなし06/07
62.化学変化と物理変化
化学変化というのは、「ある純物質が別の純物質に変化すること」と教科書には書いてありますが、簡単にいうと化学結合が切れたりつながったりして原子と原子の組み替えが起こっていれば化学変化(化学反応)と考えられます。それに対して、液体の水が蒸発して気体の水蒸気になるような変化では、水の分子の中の水素と酸素の化学結合は何も変化していないので、このような変化は物理変化と呼ばれます。しかし、化学変化と物理変化をはっきりと区別できない場合もあります。例えば、食塩のような電解質が水に溶けると場合では、食塩の中のナトリウムイオンと塩化物イオンの間のイオン結合が水に溶けるときに切れ、溶液中ではこれらのイオンは電離してバラバラになっていますが、溶解は物理変化として扱われること� ��よくあります。硫酸銅の結晶は、CuSO4・5H2Oという化学式で示されるきれいな青い色をした結晶ですが、加熱すると水(H2O)がとれ、30度を越えたあたりで少し青色が薄いCuSO4・3H2Oになり、190度まで加熱すると白色に近い淡青色のCuSO4・H2Oになります。そして、258度まで加熱すると最後の水もとれて白色粉末のCuSO4になります。このCuSO4をさらに500度くらいまで加熱すると三酸化硫黄(SO3)がとれて黒色のCuOになります。この変化は物理変化でしょうか化学変化でしょうか。
63.係数と反応量
化学反応式では「→」で反応の方向を示すので、反応の進む方向は始めから決まっていると思っていませんか。反応の中には、温度や濃度などの条件を変えることで逆の方向にも進ませることのできる反応(可逆反応)もあります。例えば、窒素と水素からアンモニアを作る反応(N2+3H2→2NH3)がそうです。このような反応では右向きの方向に反応が進んでいくと、逆の左向きの方向の反応もだんだん増えてきて全体としての右向きの反応は遅くなり、ついには両方の方向がつり合って、反応は途中で止まったようになります。だから1モルの窒素と3モルの水素を反応させても、窒素と水素が完全になくなって2モルのアンモニアができるわけではなく、途中の窒素も水素もアンモニアも混ざった状態で反応� ��止まってしまいます。このような化学反応で量的な関係を考えるときに間違ってはいけないのは、反応式の係数の比は物質の存在量の比と等しいのではなく、物質の反応量(変化量)の比に等しいということです。さて、2モルの窒素と4モルの水素と1モルのアンモニアが混ざったものを十分に反応させたとき、アンモニアが2モルになっていたなら、このとき残っている窒素と水素は何モルでしょう。
64.反応式のパターン
これから200近いの化学反応式が出てきますが、これらをそのまま覚えようとするのは大変です。化学反応を大きく分類すると、A→B+CとA+B→Cという2つのパターンが基本になっているので、授業では、反応式をこの2つパターンの組み合わせに分解して説明していきます。
化学むだばなし06/11
65.アボガドロの仮説
ゲーリュサックの気体反応の法則(1808)がいうように水素と酸素から水ができる反応では、その体積の比は、2:1:2と簡単な整数比なっています。化学反応は原子と原子の組み合わせなので、簡単な整数比になっていることから「同じ体積には同数の原子が含まれている。」と考えれば話がすっきりします。しかし、この考えにドルトンは強く反対しました。それは彼の原子説(1803)によれば、原子はそれ以上分割できないものであるのに、この考え方では上の図のように原子が2つに分割されてしまうからです。そこで原子を分割しないようにすれば、真ん中の図のように同じ体積に同数の原子というルールが破れます。この問題を解消する方法として、アボガドロは下の図のように「分子」の考え方を導入しアボガドロの法則を発� ��し(1811)、多くの反応について合理的な説明をしました。ところが、当時はイオン結合のような陽性の元素と陰性の元素との結合しか知られていなかったので、H2やO2のような同種の元素どおしがどのようにして結合するのかを説明できず、「アボガドロの仮説」として扱われました。結局、アボガドロの考えたことが正しいとわかったのは今世紀になって共有結合の考え方が確立してからでした。
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66.物質量
化学の歴史において、化学反応が研究される中で、質量保存の法則や気体反応の法則、アボガドロの法則が発見され化学反応の量的な関係がわかってきました。しかし、現在では原子説や物質量の概念から考えた方がわかりやすいので、ふつうは物質量を中心に計算をします。
67.三態の変化?
物質の三態の変化については、中学校でも習ったはずです。そこで、質問です。全ての物質は、温度を上げていくと固体から液体、気体と変化していくでしょうか。教科書に出てくる水などは確かに固体→液体→気体と変化しますが、生卵はどうでしょう。生卵は液体です。これを冷凍庫にいれて凍らすと固まって固体になり、もとの温度になると液体に戻ります。ここまでは教科書どおりです。次に、加熱するとどうなるでしょう。気体になるどころかゆで卵になって固体になってしまいます。そして、温度を下げてももとの液体に戻らずに、固体のままです。ゆで卵には凝固点はあるが、融点はない?この生卵のように固体、液体、気体と素直に変化しないものが他にもないでしょうか。また、なぜ、生卵ではこんなことがおこる� ��でしょう。
化学むだばなし06/12
69.プラズマ
古代ギリシャのエンペドレクスは、全ての物質は、地・水・空気・火が適当に混ざってできているという四元説の考えを唱えました。これは、全ての物質が原子からできているとする現在の考え方とは異なりますが、物質の状態を表したものだと考えると納得できます。つまり、地が固体、水が液体、空気が気体というわけです。では、火は何に対応しているのでしょう。ろうそくの火は気体のように思えますが、原子と原子が激しく反応し高いエネルギーを持ったイオンの状態になっています。その結果、窒素や二酸化炭素などの気体と異なって、余分のエネルギーを熱や光の形で放出したり、電気を通したりすることもできます。この状態はプラズマと呼ばれ固体、液体、気体につぐ物質の第四の状態といえます。雷の稲妻も北極� ��オーロラも太陽もプラズマになっています。プラズマは大変エネルギーが高い状態なので、核融合反応の実験に利用されたり、身近な所では蛍光灯の中も点灯しているときはプラズマになっています。
70.アモルファス
ガラスは固体でしょうか、それとも液体でしょうか。そこで、固体では、結晶のようにそれぞれの原子に決まった場所があり、液体にはないというもはどうでしょう。そうすれば、固体には決まった融点があってその温度より高くなると、原子や分子は熱のエネルギーで自分のいた場所から動き出すので、形がくずれて液体になるといえます。ガラスを加熱していくと500゚Cくらいからだんだんと軟らかくなって(軟化点という)いつのまにか液体になってしまいます。冷やすときもいっしょでだんだんと粘っこくなって水飴のようになり、そのうちに固まってしまいます。固まってからでも原子のならび方は液体のときと同じように不規則なので、ガラスは非常に粘っこい(粘性が高い)液体と考えることができます。でも、ふつう� ��温度ではガラスの原子は自由には動けません。(だから、ガラスは割れる。)そこで、このような原子が不規則に並んだまま動けなくなっている状態をガラス状態とかアモルファスといいます。この状態はガラスに限ったことではなく、水でもうまく冷やせば、ガラス状態にすることができます。ソーラー電卓の太陽電池もアモルファスシリコンを使っています。一度、身の回りでアモルファスなものを探してみましょう。
71.液晶
私たちは、三次元空間の中に存在しています。そこで、X軸の方向には固体の結晶のように分子が並んでいるが、Y軸の方向には液体のようにデタラメに分子が並んでいるものはないでしょうか。実は、それが液晶(liquid crystal)です。液晶になる分子はたいてい細長い分子で、ある方向にはきれいに並ぶような性質があります。そして、うまく極性を持たせると電圧をかけることで分子の並び方が変化し、光に対する性質が変わるので電卓などの表示部分に利用されています。いらなくなった電卓があれば分解してみましょう。
化学むだばなし06/13
72.氷の結晶構造
水というのは、人間に取って最も身近な物質の一つです。でも、他の物質と異なる性質をたくさん持っています。例えば、たいていの物質では、液体が固体になると動き回っていた原子がきっちりと並んで隙間がなくなり、体積が減ります。しかし、水では固体になると体積が増えるという性質があります。このことは、水分子の構造や氷の中の水分子の配置がX線回折や分光学の助けによって明らかになるとともに説明できるようになってきました。現在では、氷は水の分子間に水素結合が存在するので、分子どおしの配置が制限され、図のように液体のときよりも隙間の多い構造になっていることがわかっています。このことから氷が水よりも大きな体積になることがわかります。逆に高い圧力をかけてこの隙間をつぶしてしまう� ��氷の結晶構造が維持できなくなり、0゚Cより低い温度でも、氷は水に戻ってしまいます。スケートが氷の上でよく滑るのはこのためです。さて、天然の氷として雪があります。雪の結晶の形を氷の分子構造から説明できないでしょうか。
73.三重点と臨界点
固体・液体・気体といった状態変化は、ふつう温度で変化すると考えますが、スケートのような場合では圧力をかけることで固体が液体になります。また、圧力を下げていけば30゚Cでも水は沸騰し、深海のように高い圧力のかかっているところでは300゚Cを越えても沸騰しません。このように状態変化は温度だけでなく圧力とも深い関係があります。そこで温度と圧力と物質の状態の関係を調べたものが上の図です。例えば、この図で固体から液体に間の線を横切ることが融解であり、その温度は圧力によって変化するので一定ではありませんが、この線上の状態では固体と液体が共存することができます。この図には、興味深いところがあります。一つは三重点です。ここでは氷と水と水蒸気が共に共存しています。そして、その温度 、圧力は一つに定まっているので温度の基準に用いられています。もう一つは臨界点です。ここから先では液体と気体の境界線がありません。つまり液体はだんだんと変化していつのまにか気体になってしまいます。
化学むだばなし06/14
74.拡散の速度
ガラス管を使った塩化水素とアンモニアの実験では、反応してできた白煙は真ん中よりも塩酸の方へよったところにできます。このことから塩酸の分子の方がアンモニアの分子よりも拡散の速度が遅いことがわかります。では、気体の分子の熱運動の速度が何で決まるかを調べてみましょう。まず、図のような一辺の長さがLの立方体について、その左の面と右の面を衝突しながら往復する分子について考えます。質量m、右向きの速度vで運動している分子が、右の面に衝突して左向きに速度vで運動するようになったなら、この一回の衝突でこの分子が右の面から受けた力積は、運動量の変化(質量x速度の変化)から2mvとなります。この分子が左の面と右の面を衝突しながら往復するなら、この分子は右の面に1秒間でv/2 L回衝突します。1秒間の力積が力になることから、一つの分子は右の面を(2mv)・(v/2L)=mv2/Lの力で押すことがわかります。標準状態のもとでは、一辺がLの立方体の中にある分子の数は、L3NA/22.4となります。内部の気体の分子が面積L2の右の壁を押す力は、mv2L2NA/22.4となり、圧力Pは単位面積にはたらく力であることからL2で割るとP=mv2NA/22.4と表されます。この式をvについて整理すれば、分子量が大きくて重い塩化水素の分子の方が速度が遅いことがわかります。では、実際の数値を代入して速度を求めてみましょう。何か新しい発見があるかも知れません。
75.圧力の単位
圧力の単位には、物理でよく使うPa(パスカル)のように1uにどれだけの力がはたらいているかで表すものや、地上の空気の圧力を基準とする気圧(atm)、水銀の高さで表すmmHg(ミリメートルエイチジー)などいろいろあります。水銀の場合を例にとって、1気圧がどれくらいのものか求めてみましょう。1気圧のとき水銀の高さは76pなので底面積を1p2とすると水銀の体積は76p3となります。水銀の密度は、13.6g/p3なのでその重さは、13.6x76=1033.6gとなります。つまり1p2に1033.6gの重さがかかっているのと同じになります。この値は、手のひらほどの面積で200kg位の重さがかかっていることになります。(この1033.6gは地面の上にのっている空気の重さということにもなり、地球全体の空気の重さを求め� �こともできます。)しかし、ふつうにしているときにこんな大きな力を感じないのは、は、体の前からも後ろからも外からも内からも同じだけの力がはたらいていてつり合っているからです。1654年、ドイツのマルデブルク市の市長ゲーリケは、2つの半径40pの銅の半球を合わせ中の空気を真空ポンプで抜きました。そうすると2つの半球は周りの空気の圧力でぴったりとくっつき、両側から8頭ずつの馬で引っ張っても引き離すことはできなかったということです。では、この半球を引き離すにはどれくらいの力がいるでしょう。
化学むだばなし06/18
76.水銀の密度
大気圧の説明に出てくる水銀柱で使う水銀の密度は13.6g/cm3です。(以下、単位は全てg/cm3)水の密度はよく知られているように1.0です。理科年表を見ると、石では花崗岩が2.6-2.7、砂で1.4-1.7くらいです。木材では、桐が0.31と大変軽く、座敷机に使う黒檀では1.1-1.3と水に沈みます。つまり、木は水に浮くというのはいつも正しいわけではありません。金属では、リチウムの0.534、ナトリウムの0.97などは1.0より小さいので水に浮くことがわかります。こういう金属で船を造ればどうなるでしょう。重い方ではオスミウムの22.5が最高です。続いて白金で21.37、金が19.3、ウランも重くて18.7、鉛が11.34です。身近なところでは鉄が7.86、アルミニウムが2.69です。金属では密度が4以下のものを軽金属といい、それ以上のものを重金 属といいます。こうしてみると水銀は金属としても重い方に属します。一度機会があれば水銀を持ってみて下さい。なかなかのものです。当然のことですが鉄よりも密度が倍ほど大きいので鉄の塊でさえも余裕で、つまり半分くらいしか水銀につからない状態で浮きます。
77.蒸気圧の考え方
蒸気圧の考え方は難しいものです。水を例にとれば、1気圧のもとでは固体の氷は0℃以下で存在し、液体の水は0℃以上で存在するとはっきりしているのですが、気体の水蒸気については100℃以上はもちろんのこと、空気などに混ざることによって水蒸気の圧力が1気圧より低くてもよければ、20℃でも、-10℃でも存在することができるのです。だから、100℃にならなくても洗濯物から水は蒸発して気体になります。冬になると窓ガラスに露や霜がつくのは、窓ガラスのように冷たい物体に触れた空気は温度が下がって、蒸気圧曲線からわかるように空気に混ざることのできる水蒸気の割合がへって、余分となった水分が露や霜として窓ガラスにつくのです。その結果、部屋の中の空気から水分がなくなり、空気が乾燥して喉が痛く� �ったりします。この原理を利用して液体空気を使って-190℃まで冷却すると、ほとんど完璧に(空気1リットルに水の分子が1個残るかどうかの程度まで)乾燥させることができます。では、ドライヤーで塗れた髪を乾かすのに、温風か冷風かどちらが速く乾くでしょうか。蒸気圧から考えれば温度が低い方がよく乾燥するはずですが、どうなっているのでしょう。
78.フロン134a
フロンは、フッ素を含む炭素の化合物のグループの名前です。冷蔵庫やクーラーに冷媒としてフレオン(CCl2F2)のようなフロンが利用されてきた理由は、圧縮すると簡単に液体になり、適当な温度で蒸発し(冷凍庫の温度は-18℃くらい)、そのとき吸収する熱量が大きく、何年も使えるような分解しにくい物質だからです。そして、これだけの条件がそろった物質はフロンの他にはなかなかありません。オゾン層の破壊はフロンの中の塩素原子のはたらきによることがわかってきたので、最近では塩素を含まないフロン134a(C2H2F4)が利用されています。
化学むだばなし06/19
79.湿度が高い
梅雨になってジメジメとした日が続きます。こういうときは「湿度が高い」といいますがこの湿度は正確にいうと飽和蒸気圧に対する相対湿度です。例えばある日の気温が30℃で、そのときの水蒸気圧が16mmHgとします。30℃のときの飽和水蒸気圧は32mmHgなので、16mmHgはその半分となり相対湿度は50%になります。水蒸気圧が同じ16mmHgでも気温が22℃に下がって飽和水蒸気圧が20mmHgになれば、相対湿度は80%になります。もし、温度が11℃まで下がって飽和水蒸気圧が10mmHgになれば、どうなるでしょうか。相対湿度160%にはなりません。飽和水蒸気圧より高い圧力で水蒸気が存在することはできないので、余分の水蒸気は水になり、空気中の水蒸気圧は10mmHgとなって相対湿度は100%となります。梅雨時の雨の日にコンクリートの床などが水滴� ��ベタベタになるときがあります。これは、湿度が100%に近い状態の空気が冷たいコンクリートに触れて、空気の温度が下がり、空気中の水蒸気圧のうち飽和水蒸気圧を越えた分が水滴となってあらわれたからです。では、秋の雨のときには、梅雨のようにひどくベタベタにならないのはなぜでしょう。
80.液体空気
空気も-190℃くらいまで冷やすと液体になります。では、どのようにすればそんなに低い温度まで下げられるのでしょう。身近な冷蔵庫では、フロンを冷媒として使い、このフロンが蒸発するときに周りから熱を蒸発熱として吸収することを利用して温度を下げています。だから、冷蔵庫の中に冷蔵庫を入れて、その冷蔵庫に冷蔵庫を……ということを繰り返してもダメです。それは、温度が下がりすぎるとフロンが蒸発しなくなって温度が下がらなくなるからです。液体空気を作るときは、あらかじめ圧縮した空気を冷やし、小さな穴から吹き出させて膨張させます。そうするとほんの少しですが分子どおしが離れて分子間力が減った分だけ温度が下がります。この操作を何度も繰り返して少しずつ温度を下げていくのです。最も低い 温度で液体になるのがヘリウムで-269℃で液体になります。これより低い温度では、圧縮した気体が存在しないのでこの方法も使えなくなってしまいます。もっと温度を下げるにはどうすればよいでしょうか。
81.デュワー瓶
大学の実験ではよく液体窒素を使います。液体窒素を使う実験をしているときは毎朝、デュワー瓶(瓶といっても金属でできている)という大きな魔法瓶をぶら下げて低温センターまで液体窒素を取りに行きます。このことを「窒素を汲みに行く。」といいますが、液体窒素の溜まっている井戸があるわけではありません。冷えていないデュワー瓶にいきなり-190℃の液体窒素を入れようとしても、温度差がありすぎて液体窒素が沸騰して周りに飛び散り、そこらじゅうに白い煙(蒸気)がもうもうと立ちこめるだけです。窒素を汲み取るには、はじめに窒素のガスを通して、デュワーの中をよく冷やしておくことがコツです。
化学むだばなし06/20
82.絶対零度の付近
熱運動というのは、温度が下がるほど弱くなっていきます。絶対零度の付近まで下がると、それまで熱運動によって隠されていた現象が現れてきます。つまりエネルギーの最小単位である量子よりも熱のエネルギーが小さくなってしまうとエネルギーのやり取りができなくなって、量子効果と呼ばれるものが現れてきます。例えば、ヘリウムは零点振動のために1気圧のもとではどんなに温度を下げても液体のままで固体にはなりません。そして、圧力を上げて固体にすると凝固熱がでるのではなく反対に温度がさがってしまいます。2.17K以下では超流動状態になり、どんなに狭い隙間もするすると通り抜けたり、容器の壁を伝わって勝手に流れ出したり、沸騰しなくなったりと常識では考えられない現象が起こります。興味があれば 、一度極低温の本を読むことをお勧めします。
83.沸騰と過熱状態
液体の内部からも蒸発がおこる現象を「沸騰」といいます。しかし、液体の表面から大きなエネルギーをもった分子が気体の中に飛び出して行けば、蒸発のイメージになりますが、液体の中では、大きなエネルギーをもった分子がどう動いても液体の中であることは同じで、蒸発できそうにもありません。蒸発するには、どこかに気体が必要なのではないでしょうか。お茶をわかすときなど、やかんで水を(あまり強くない火で)沸騰させていると、始めはどんどん泡がでてきますが、しばらくすると沸騰の様子が変わってきて、あまり泡が出なくなってきます。これは、水のときに混ざっていた泡の種となる細かい泡(気泡)がだんだんなくなって、沸騰しようにも泡の種となる気体の部分がなくなってしまうからです。この状態で� ��外から与えられた熱を蒸発熱に変えることができないので、過熱状態という100℃より温度の高い水(液体)になっています。ここへお茶の葉を入れると、お茶の葉の隙間などの気泡が泡の種となって、一気に沸騰が起こります。この現象を「突沸」といいます。蒸留したり試験管で液体を過熱するときには、この突沸が起こらないように沸騰石という軽石のような泡のたくさん入った石を入れます。
84.保冷剤
保冷剤はなぜ凍らせて使うのでしょうか。それは融解するときに多量の融解熱を周りから吸収するからです。そして、その間の温度が融点で一定に保たれるということも大切です。だから、融点が20℃ではクーラーボックスの保冷剤には使えません。地球の気候が他の惑星に比べて穏やかなのも、北極や南極に氷を蓄えていて、温度が上がればその氷が溶けてその熱を吸収し、温度が下がれば水が凍るときに熱を出すことで気温が変化しにくいようになっているからといえます。沸騰しているやかんのふたを取ろうとして湯気が手に当たり、熱いと思ったことはありませんか。同じ100℃でも蒸気とお湯では、蒸気にあたったときの方がはるかにひどいやけどになるのはなぜでしょう。
化学むだばなし06/21
85.空気バネ
電車に乗るときに音に注意していると、床下からシューシュー音がしていることがあります。これは電車をささえるのに空気バネを使っているからです。空気バネの原理はボイルの法則そのもので、押されて体積が小さくなったら圧力が高くなって押し返すというものです。これだけならふつうのバネと同じようにみえまますが、押して使うときには、空気バネの方が優れた点があります。例えば、たいていの自動車の前のタイヤの裏側には、太いコイルバネが入っていて、これで自動車をささえています。コイルバネではバネが押されてコイルとコイルの隙間がなくなってしまうと、もはや単なる金属の棒と同じでクッションのはたらきはしなくなってしまいます。ですから、乗り心地を重視する自家用車では、縮みやすいバネを使� ��ているのでちょっとしたでこぼこならうまく吸収してくれるのですが、大きなでこぼこになるとコイルの隙間がなくなって振動がそのまま伝わってしまいます。そこで、逆にバネを固くして縮みにくくするとと大きなでこぼこでもある程度吸収する代わりに、小さいでこぼこもそれなりに伝わるので乗り心地の悪い自動車になってしまいます。しかし、空気バネは、縮むほどバネが固くなるので、小さなこぼこはよく吸収し、大きなでこぼこでもある程度は吸収してくれるので乗り心地はずっと良くなります。ただ、装置が大きくなるので自動車には無理かもしれません。引っ張って使うときはどうでしょうか。
86.熱気球の大会
シャルルの法則によれば、同じ1リットルの空気でも温度が低いときの方がたくさんの分子を含んでいることになります。自動車でいえば、同じ排気量でも気温が低いときほどたくさんの空気の「分子」を取り込むことができるので馬力は増えるはずです。最も、あまり温度が下がると燃え難くなるのでそううまくはいきませんが……。でも、ターボのついたような自動車ではエンジンに入る空気をクーラーで冷やしています。では、熱気球の大会は、春、夏、秋、冬のうちどの季節に行われるでしょうか。
87.示量性と示強性
気体の状態方程式など物質の量的な関係を扱うようになると温度や体積などいろいろな状態量が出てきます。しかし、これらの状態量には2種類あるのに気がついているでしょうか。質量や体積のように物質量を2倍、3倍としたときに、いっしょに2倍、3倍と共に変化する量を示量性の量といいます。それに対して、温度や圧力、密度のように物質量を変えても変化しない量を示強性の量といいます。つまり、40℃の水40gと40℃の水40gとを混ぜたら、重さは80gになりますが、温度は80℃にはならないで40℃のままということです。式を書くときもこういったことを意識しておくと、式についての理解も深まります。[密度]x[体積]=[質量]のように示強性の量は示量性の量をかけると示量性の量に変わります。では、示量性の量を� �強性の量に変えるにはどうすればいいでしょう。
化学むだばなし06/25
88.気体の貯蔵
気体は、液体や固体と違ってきっちり閉じこめておかないとすぐに拡散してなくなってしまうし、容器に入れるときも大きさの割に少ししか入らないので扱いにくいものです。そこで、1つの方法はボンベ(爆弾という意味のドイツ語、英語では筒という意味の「シリンダー」という。)に高い圧力をかけて押し込む方法です。例えば、水素や酸素では、150kg/cm2(約150気圧)の圧力にするので、40リットルのボンベでは、ボンベにかかる力は10トン近くになります。この力に耐えるためにボンベは鉄製の丈夫なものとなり、その重さは60kgもあります。このとき中に入っている水素の重さはたった535gです。これでは、ボンベを運んでいるのか、水素を運んでいるのかわかりません。もう一つの方法は、温度を下げて液体にする方法� ��す。窒素の場合、-190℃まで温度を下げて液体にすると0℃の気体に比べて体積は664分の1になってしまいます。この方法の欠点は冷却装置がなければ、長期間保存することができないことです。適当な容器に液体の窒素を入れ、蒸発してくる気体が逃げないようにしっかりと栓をすればどうなるか考えてみましょう。プロパンや二酸化炭素は、臨界点の温度が高いので圧力をかけると常温でも液体になってしまうので、小さいボンベにより多くの物質を詰めることができます。アセチレンは30気圧くらいまで圧縮すると爆発するので、アセトンに溶かして15気圧程度に保っています。パラジウムという金属は水素原子を原子の隙間に吸収することができるので、水素を燃料とする自動車の水素ダメとしての利用が検討されています。このよ� �に気体を貯蔵するためのいろいろな方法が考えられています。この他にもいいアイデアはないでしょうか。
89.ヘモグロビン
血液中で酸素を運んでいるのは、赤血球の中のヘモグロビンという物質です。このヘモグロビンはヘムという鉄を含んだ部分と、グロビンという蛋白質からできています。肺ではこのヘムの中にある鉄の原子に酸素が結合し、体の隅々の毛細血管では鉄と酸素の結合が切れて細胞に酸素が供給されています。このように、うまく逆の反応が起こっていますが、これをコントロールしているのが酸素の分圧です。肺で酸素の分圧が高くなるとヘモグロビンは酸素と結合し、酸素の分圧が減少するとその酸素を放出します。分圧は直接測ることができませんが、気体が関係する化学反応では分圧が大切な役割をしているのです。ジエチルエーテルの瓶に空気を吹き込んで栓をしてからよく振ると大きな音とともに栓が飛びます。これは、空� ��を吹き込んだことでジエチルエーテルの蒸気が追い出されて、ジエチルエーテルの蒸気圧が、つまり瓶の中の空気などの気体の中でのジエチルエーテルの分圧が、温度から決まる飽和蒸気圧より低くなり、それを取り戻すために蒸発が起こったから瓶の中の圧力が1気圧以上になったからです。潜水艦の中では、水圧に耐えるために艦内の圧力を上げます。このとき単純に空気を圧縮するのではなく、窒素やヘリウムを余分に加えて圧力を上げるのはなぜでしょうか。
化学むだばなし06/26
90.化学の勉強
化学の勉強も一学期の終わり近くなってくるとずいぶん難しくなってきましたが、家ではどんな勉強をしていますか。化学の勉強は毎日する必要はありませんが、一つの単元ごとに復習をすることは必要です。教科書やノートをしっかりと見直してもう一度頭の中を整理します。これをいいかげんにしてはいけません。今までとは勉強の深さが違うので、うわべだけをながして、こんなようにことを習ったなあというくらいでは、全然頭に入っていないのです。
91.宿題が出たら
将来の希望を持っていますか。大学は高校と違って学部や学科が細かく分かれているので、自分に何をしたいかというのがないとただ漠然と大学に行きたいからというだけの理由ではどこを受験するのかも決まりません。では、どうすれば自分のしたいことが見つかるでしょうか。それは簡単なことで、何かに自分から取り組んでみることです。化学に興味があれば化学の本を読んだり、また、実験をしてみるのもいいでしょう。とにかく、自分で何かをやろうと決心し、それをやりきることです。実際にやってみればそれがじんなにめんどくさくって、しんどいことかということと、やり遂げたときの満足感と喜びを経験することでしょう。そして、一つのことを仕上げてこそ、自分の適性も興味もわかってくるものなのです。与え� ��れたことだけで、自分から積極的に何もしないままでは自分の本当の力量はアップしません。大人の世界の仕事も同じで最後までしてはじめて一つの仕事が完成し、対価を得ることができるのです。君たちは、宿題が出たらイヤだと思うかも知れませんが、社会では仕事が来たら自分の腕を上げるチャンスなのです。
92.温度の測定方法
実験室で温度を測るときは、ふつうガラス棒の中に赤い液体の入った温度計で測ります。この種類の温度計をよくアルコール温度計といいますが、中の赤い液体は、ほんとうは灯油に赤い色素で色を付けたものでアルコールではありません。温度が上がると、灯油の分子の熱運動が激しくなって分子と分子の間の隙間が大きくなるので全体としての体積が増加すること(熱膨張という)を利用しています。温度計のしたの球の部分に比べた上部の体積の割合が小さいので、少しの体積変化を拡大して見ることができます。この割合を極端にしたのがベックマン温度計で、0.01℃まで測定することができます。その他にサーミスタと呼ばれる半導体を使った温度計もあります。この温度計は半導体の電気抵抗が温度の変化で敏感に変わるこ とを利用していています。広い温度の範囲である程度の正確さで温度変化を測定するときには、熱電対というものを使います。これは白金とロジウムなど2種類の金属を2ヶ所で接触させたとき、その2ヶ所の温度差に比例した電圧が生じるという熱起電力を利用した温度の測定方法です。これらのほかに温度の測定方法としてはどんなものがあるでしょうか。
化学むだばなし06/27
93.打出の小槌
気体の状態方程式PV=nRTには、気体の状態を表す4つの変数が全て入っているので気体の状態に関するどんな法則も必ずこの方程式を満たしていなければなりません。逆に言うと、この方程式は適当に変形することで気体の状態についてのどんな法則も導きだせるという「打出の小槌」のような大切なものです。例えば、気体の分子間には力が作用しないので気体の分子どおしは、互いに無関係な熱運動をしているというようなこともこの気体の状態方程式から導くことができるのです。授業では気体の状態と分子量との関係しか扱いましたが、これをもう少し発展させてみましょう。アドバルーンのように風船が空気中で浮くかどうかは、空気との密度の大小で、つまり同じ体積どおしで比べたときの重さの大小で決まりまり� ��空気より小さければ浮きます。ではそれを判断するにはどうすればよいか、気体の状態方程式から導いたPV=wRT/Mから導けます。気体の密度は体積あたりの重さだから、上の式をw/Mについて解けば何が気体の密度を決めているかがわかるはずです。
94.分子線の衝突
気体の分子は熱運動によってデタラメな方向に運動していますが、うまく工夫するとその方向をコントロールすることができます。例えば、息を強く吹くと気体の分子の運動はその方向に強制的に向けられて、風の向きに垂直な方向への熱運動が減少し、その方向の圧力が減少することを意味します。飛行機が飛ぶのはこの原理を利用しています。翼の上と下とでは上の方が風の速度が速いので、その分だけ圧力が下がって気体が上に吸い上げられるのです。試しに薄い紙を口元にあてて紙の上のところを吹くと紙が上に上がります。小さな穴から真空中に分子を吹き出させると、衝突するものがないので分子はその方向に一直線に進んで行きます。この分子の流れを分子線といい、極性のある分子では途中に電極をおいて電圧をかけ� ��と分子の向きを決めることもできます。分子の向きまで制御した2本の分子線を衝突させれば、化学反応をメカニズムを探ることもできます。
95.負の温度
よく「風邪をひいて熱がある」といいますが、この状態は正確には体温という温度が高いのであって、温度と熱(熱量)は異なるものです。熱量と温度の区別ができるようになったのは近代になってからで、熱量というのは分子が持っている熱運動のエネルギーの合計ですが、温度は熱エネルギーの分配状況を表すものです。温度が低いときは、熱エネルギーを多く持った分子が少しで少ない分子が多く、温度か高くなるにつれて、熱エネルギーを多く持った分子が増え少ない分子が減っていきます。そして、温度が無限大になると、両方の分子の数が同じになります。さらに、熱エネルギーを多く持った分子の方が多くなると式の上では負の温度(絶対温度で)ということになり、この状態はレーザー光を作るときに現れます。
化学むだばなし06/28
96.エマルジョン
水と油のように混ざり合わないものをうまく混ぜるには、どうすればいいでしょうか。マヨネーズは見た目には一様な物質ですか、酢と油に卵を混ぜて作っています。直接には混ざりあわない酢と油がどうしてうまく混ざっているか。それは卵に秘密があります。卵は蛋白質を多く含み、蛋白質は水とも油ともそれなりに仲良くすることが出来ます。マヨネーズの中では、細かい油の粒のまわりを淡泊質が取り巻き、エマルジョンという一種の保護コロイドになっているのです。そして、この粒が酢の中に混ざっているという状態になっています。実際にマヨネーズを作るというのはかなり難しくて、酢と油と卵を一度に混ぜたのではほとんど混ざりません。ある程度うまく作ってもどろっとしたドレッシングという程度でなかなか売� ��ているマヨネーズのようにはならないものです。このマヨネーズのようにエマルジョンとなっているものには生クリームもあります。生クリームの場合はどんな構造のエマルジョンになっているでしょうか。
97.水処理
上水道や下水道の水処理にもコロイドの知識はいろいろと活用されています。大学生のころ、大阪の日本橋というところへよく電気の部品を買いに行きました。その行き帰り、阪急の淡路のところに柴島の浄水場があってそこに「ばんど」と大きくひらがなで書いたタンクがあり、何か気になっていました。そのときは何かわからなかったのですか、後に調べてみるとそれはアルミナのことでした。つまり、淀川から取り入れた水は泥で濁っているので、この泥の疎水コロイドを凝析させるためにアルミニウムの化合物を加えていたわけです。泥のコロイドは負の電気を帯びているので、3価の陽イオンであるアルミニウムイオンが有効に作用するというわけです。最近では「ばんど」の替わりに高分子凝集剤というものも使われてい� ��す。これは細長い分子で分子の両端ところで泥の粒子と結びつき、泥の粒子どおしを結びつけて沈殿させるというものです。夏場になると水がカビ臭くなることがありますが、このときは活性炭の出番です。活性炭ににおいの粒子を吸着させてかび臭さを取っています。家庭用の浄水器にもこれは利用されていますが、古くなると吸着しなくなったり、細菌の住みかになったりするので注意しましょう。こちらも最近はオゾンを使ってにおいの分子を分解することが始められています。
98.電気泳動で分離
生物の体は何万種類の蛋白質からできています。これらは化学的にはどれも蛋白質という事でよく似ていますが、生物にとってはほんのちょっとした違いが致命傷になることがあります。例えば、ヘモグロビンのほんの一部が異なるだけで貧血になることがあります。この蛋白質の分離には、電気泳動を利用して蛋白質を濾紙の上で泳がせます。そうするとほんのちょっとした動き方の違いで複数の蛋白質が混ざっていても一つ一つに分離する事が出来ます。
化学むだばなし07/02
99.ランダムウォーク
グラスゴー大学で植物学の研究を行っていたブラウンは、水中に懸濁した花粉の粒子が絶えず不規則な運動をしていることを1827年に発見しました。これがブラウン運動です。しかし、当時、熱は熱素という物質であると考えられていたので熱運動の概念はなく、なぜ不規則に動き続けるのか全く説明できませんでした。その結果、一般の科学者たちの反応は、装置の振動や対流による液の撹乱など実験上の不備であるというものでした。1905年になって、アインシュタインは、熱運動をしている溶媒の分子がコロイド粒子に不規則に衝突するのがブラウン運動であると仮定した理論を発表しました。そして、1909年にペランがアインシュタインの理論に基づいてアボガドロ数を求めたところ、その値は他の方法で求めたものと一致してい� ��ので、この理論が正しいことが確認されました。ブラウン運動は、数学的にも興味深いものでランダムウォーク(酔歩)とも呼ばれます。数直線上の原点に酔っぱらいがいたとします。この酔っぱらいは1秒間に1歩進むが酔っているので右に1歩進む確率も左に1歩進む確率も50%ずつであるとして、十分時間が経った後、この酔っぱらいが数直線上のどの位置にいるかをグラフにしてみると、それは原点を中心とした正規分布の曲線になります。結局、酔っぱらいは原点の近くにいる確率が高いことがわかります。これを2次元、3次元と拡張すれば、現実の世界のブラウン運動の理論になるのです。1次元では酔っぱらいは原点に戻ってきますが、2次元以上ではどうなるでしょう。
100.シリカゲル
お煎餅などの袋の中に入っている湿り止めにシリカゲルというものがあります。シリカゲルという言葉の意味は、シリカのゲル状になったものという意味で、シリカは、ケイ素(シリコン)の酸化物である二酸化ケイ素のことです。シリカゲルの作り方は、水ガラスといわれるケイ酸ナトリウムの水溶液に希塩酸を加えると加水分解が起こって白い二酸化ケイ素の沈殿がドサッと出てきます。これがシリカゲルです。シリカのコロイド粒子が集まってくっついた構造になっているので、隙間のところに水の分子を吸着することができます。つまり、お煎餅が水分子を吸収して湿気る前にシリカゲルがその水分子を吸着して取ってしまうという仕組みです。湿り止めといって乾燥剤と言わないのは、水分を吸収する力がそんなに強くない� ��で、いったん湿気てしまったお煎餅をもう一度乾燥させることはなかなかできないからです。市販されているもので青い色のものは塩化コバルトの色でうすいピンク色になると水分子がいっぱい吸着したのでもう水分を取ることはできませんというサインになっています。こうなってもフライパンなとで炒ると吸着していた水分子が蒸発して元の青い色になり、もう一度使うことができます。ゲルの中でもシリカゲルのように水分のほとんどないゲルをキセロゲルと言います。アルコールなどを使って出きる限り低い濃度でシリカゲルをつくるとほとんど空気のほんとに隙間だらけになり、これをエアロゲルといいます。
化学むだばなし07/03
A.ネタ出しの苦しみ
授業の時に話したいことは多いのに、時間がないので話しているとただでさえ早口なのがますます早口になってしまう。そんなジレンマを解決するために始めた化学むだばなしです。一つの話を書いていると、つぎの話がどんどん浮かんでくるのでここまで来てしまいました。というのは真っ赤なウソで、うんうん言いながら逆立ちしたりてネタ出しをするのは、まるでドラクエの4コママンガの作者と同じ世界です。0.でも書いたようにほんのお遊びのつもりで始めたのですが、結構おもしろいところもあって、ひいひい言いながらもハマってしまいました。おかげでここ数年使っていなかったネタを掘り起こすこともできたので、いい仕事になっています。内容的には難しいこともあると思いますが、こんなこともあるのかと頭の� �こか片隅においてもらえばいいのですが、できることならそれぞれの話の中にある問いを考えてみて下さい。「解く」と言わないのは、問題集ではないので、必ずしも答えがあるわけでもないし、未解決の問題もあります。教科書や問題集では答えが一つにわかっていていることばかり書いているので、全てのことがわかってしまっているように感じますが、よくわかっていないことはゴロゴロしているということや教科書に出ていない世界の方が広いということに気づいて欲しいのです。
B.昔話し
夏休みは時間があるのでやる気さえあれば、いろんな実験をすることができます。昔話しになりますが、私が夏休みにした実験を2つ紹介しましょう。一つは、ミョウバンの結晶を作ったことがあります。温度が下がっても溶解度の目次へ計算どおりに結晶が出ないので、それならと冷蔵庫で冷やしたら小さな結晶ばかりがくっ付いたのがドサッとできで大きいのはできませんでした。そして、溶解度を測定しようとしたら、ミョウバンの重さは量れても、高い温度では水がどんどん蒸発するので、水の量が決められなくてうまくいかず失敗しました。でも、その時の溶液を押入れに入れてほっておいたら夏休みの終わりには水が少しずつ蒸発して大きくてきれいな結晶ができていてビックリしたのを覚えています。もう一つは、電池� ��作ったこともあります。レモン目次へを使って電池ができるというので作ってみたときは、豆電球もつかないしモーターも回りません。そこで、父親のテスターを使ってやっと電気が出ているのがわかる程度のものでした。いろいろと試した中で乾電池を分解して取り出した亜鉛と、酸性の強そうなもの目次へとして梅干しの汁を電解液に使ったらようやく豆電球もつき、モーターも回る電池ができました。実験には失敗がつきものです。失敗したりうまくいかなかったときに、その原因を考え少しでも良くなる方法を考える能力が必要です。
C.高い買い物と掛けて妹の嫁入りと解く
最後に謎掛けを二つ。高い買い物と掛けて妹の嫁入りと解く目次へ。その心はねえと相談。では、授業と掛けてお料理番組と解く。その心は、
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